第50話 ゴブリン

文字数 709文字

 なにか大切なものを失った気がする。
 いつ、どこで、なにを失ったのだろう。
 わからない。
 有人の長瀬が遊びに来ていたので、
「なぁ。おれたちなにか失わなかったっけ」
 と尋ねてみた。
 すると長瀬は、
「青春だねぇ」
と、言う。
「どこらへんが青春なんだよ」
「こいつが青春と言わずしてなんと言おうか。おれたちは、失いながら生きている」
「ダッサ……」
 あきれてしまう。
「あはは。でもたしかに、忘れてるな、なにかを」
「な。だろ」
 おれは唸って考える。
「誰かの犠牲の上に、おれたちは生きている気がするんだよね」
 おれがそう言うと長瀬は、
「あ!」
 と、高い声を出した。
「なんだよ、いきなり」
「あれだ!」
「あれって?」
 なにも思いつかない。
「おれたたち、異世界転生して戦ってなかったっけ」
「それでか! わかった!」
 合点がいく。
「わかったとは?」
「消えていた糸が、ひとを異世界転生のまんがやライトノベルを書かせているんだ!」
「どういうことだ?」
「ひとはもとから異世界にいたことがある奴らばかりってことさ。それが、現実に転生しなおしている」
「そりゃベタな」
「もしくは」
「も、もしくは?」
「まだここは異世界。ここが異世界」
「ビンゴ!」
 長瀬もそこに思い至ったらしい。
 そうだ、気づかないうちにおれたちは、家をゴブリンたちに包囲されていたのであった。 一時の記憶喪失に陥っていたらしい。
 失っていたのは、この異世界現実の記憶!
 窓の外のゴブリンたちを見て長瀬は、
「んじゃ、サクッと勇者になっちゃいますか」
 と、不敵な笑みを浮かべた。
「望むところだ!」


〈了〉
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