第53話 つまらない話を君にしよう

文字数 628文字

 君と最初に会った場所?
 忘れちゃったなぁ。なんて。
 はじめてこちらから意図して君のところへ出向いた時のことはよく覚えてる。
 雪の降る日、駅前。コンビニのドリップコーヒーなんか飲みながら、最寄り駅へ君が降りてくるその電車を、ドキドキしながら待っていた。
 もしも君が現れないなら、タイムリープして何度でも君を待つもりでいた。いろんな可能性の世界を行き来して。
 だけど、君は一回目で現れたんだ。
 電車から降りて。
 僕は一気にコーヒーを飲み干す。そして君に近づいた。
 君の方もわかっていたんだ、こんな日が来ることを。
 予知能力者の君には「知られている」「予知されてる」ってのがどんなに憎たらしくて、同時に可愛らしいかわからなかたっただろう。
 君は唇を尖らせてこう、言う。
「現れるならもっとかっこよく登場してよね、パパ」
 自分と同じ年齢の、高校生の僕に、君は確かにパパと言った。僕は噴き出した。
 僕も時空を旅し過ぎたんだと思う。感覚が狂っていたんだ。
 そこからラブロマンスが起こって、複雑な関係が生じるとは思っていなかった。
 でも、こんな話、つまらないだろう。過去から来た僕の話なんて、古くさくて。
 僕は時間を旅できるけど、君の時間は操れない。
 君の母と恋愛して、君と恋愛して。
 ……その君らの墓前でこんな話をしてるんだから、さ。
 学生のまま、ここに来て。不可逆になってしまった。
 ほんと、……つまらない話だよ。


〈了〉
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