第56話 ハーピー人形

文字数 945文字

 今、大人たちはハーピー人形に夢中だ。
 大人の男性がこぞって、天使のルックスを持った人形であるハーピー人形を買う。
 そして、飼う。
 ハーピー人形はバトル型人形であり、互いにプレイヤー同士が戦わせることが出来る。
 ブルさんとモンスさんがハーピー人形でバトルしているところを、七歳の少年、ライジンくんは目を丸くして見つめていた。
 ブルさんのハーピー人形がモンスさんのハーピー人形の腕をくちばしで引きちぎる。
「ピギィー」
 ハーピー人形が痛みに声を荒げた。
「おい、どうしたんだ! まだやれるだろ!」
 モンスさんが選手席でがなる。
「ピ、ピギギギギ……」
 モンスさんのハーピー人形は腕をなくして攻撃不可能となり、そこにブルさんのハーピー人形が四肢をもぎ取り、完全勝利した。
「ひゃっはー。勝ち勝ちぃ」
 モンスさんからしこたま掛け金をもぎ取り、ブルさんは去っていく。
 ライジン少年は闘技場を、まだ見ている。
「おい、ガキ! 見せもんじゃねぇぞ! 消えろ!」
「ねぇ、おっちゃん」
「ああん?」
「このハーピー人形、僕にゆずってよ」
 少年が金を差し出す。
 モンスさんはへらっと口を歪めた。
「……すくねぇな。ちっ。まあいい。処分にも金がかかるんだ。てめぇにくれてやってもいい」
「ありがとう」
 犠牲になったハーピー人形の四肢を拾い集める少年。
「天使さん! 天使さん! 天使さん!」
 ライジン少年は連呼した。

*********************

 その日から少年は変わった。
 少年はそれからどう変わったか。
 少年は観賞用に、ハーピーの身体を表面だけくっつけた。
 それからというもの、食い入るようにハーピー人形を見つめる日々がはじまった。
 するとどうだろう。
 それがまるで鏡のように思えてきて、やがて少年は少女になった。ライジン少年は天使の羽を着用し、ハーピーに成り代わったのである。
 だが、直したハーピーもまた、表面だけ取り繕ったのみ。ライジン少年……いや、ライジン少女もまた、表面だけの天使となり、それが嫌で少女の心を磨き始めると、ハーピー好きの成人男性に戦いに引きずり出され、身も心もずたずたにされる運命が待ち構えていたのであった。

〈了〉
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