第69話 ロボット生産ガチャ

文字数 2,095文字

 ロボットを生むロボット、というと言葉がヘンだろうか。
 例えばオートメーション化された工場でロボットがつくられれば、それは立派な「ロボットを生むロボット」だ。
 ただ、それは流れ作業という形式を取っていたため、ロボット生産ロボットはいつの間にか、巨大な芋虫型と相場が決まってしまっていた。
 かれこれ随分昔の話だ。
 サイバネティクスパーツのプラントがホルマリン容器なのと芋虫型は一線を画していて、小型化され、一家に一匹、ペットのように人々は芋虫型を飼う。そして、ロボットパーツをつくる『ロボット生産ガチャ』に人々は勤しむようになったのだ。パーツではなく、完成型ロボットが生まれることもある。ロボットを生むロボットたる所以である。優秀なロボットプラント。
 ロボット生産ガチャは、芋虫型の口に各種パーツを食べさせ、芋虫型が自動的に製造し吐き出すロボットの出来を楽しむ、という『ガチャ』である。
 おれも大人になって一人暮らしの寂しさから、小型の芋虫を購入し、ロボット生産ガチャを楽しんでいた。
 ところが芋虫、どうしたことか、人間そっくりのロボットをつくってしまったのである。
 おれはつくられたガチャのロボットに、オボチャマンと名付けた。昔読んだマンガに出てきたロボットをうろ覚えのまま、採用したのである。オボチャマンは『ウルトラレア』のロボ。おれは興奮した。ウルトラレアなら、人間そっくりでもおかしくない。

 オボチャマンは芋虫型に従順だった。こっちとしても、オボチャマンと芋虫のやりとりの和気藹々にほっこりするのだ。ロボット生産ガチャは素晴らしい。
 オボチャマンは自立二足歩行のお掃除マシーンだ。いつもおれの部屋の片付けと掃除をやってくれて、それをやらない時は省エネのためにスリープモードに入っているか、芋虫型と戯れている。
 一方、芋虫型は、おれの金を大量にかっさらっていく金食い虫のような存在だった。
 が、どうしても金が出来ると、ガチャ用のロボパーツを買いに、電気街へ行ってしまうのをやめられない。パーツを持ち帰ったら芋虫に食わせ、ロボット生産ガチャを実行する。
 出来た作品、……ロボットのほとんどは俗に「ノーマルロボ」と呼ばれるがらくただ。
 それが生産されるとおれはオボチャマンに片付けてもらう。ごく稀に「レアロボ」と呼ばれるモノが生産される。オボチャマンにしても、「ウルトラレアロボ」で希少性は更に高い。
 おれがウルトラレアロボで出すことに成功したのはオボチャマンの一回だけだ。
 この二年間でウルトラレアはオボチャマンの一回、レアロボは六回出した。
 ノーマルは飽きたらレアの強化素材にしてしまうのに対し、レアロボはオボチャマンに命じて、大切に飾ってもらうことにした。
 それ用の棚もどでーん、と置いといたのだ。眺めても遊んでも最高な小型ロボ。ドローン型やスペースシャトル型など、男子心を掴むそれらを、おれは愛でた。
 だが、おれがそれらレアガチャで得たロボで喜ぶのを、オボチャマンは快く思っていなかったようだ。
 夜、トイレに行きたくなって目を覚ます。がさごそ音がする。
 なにかと思えば、芋虫型の口をオボチャマンがこじ開けて、腕を突っ込んでは取り出し、突っ込んでは取り出しと、繰り返している。
 そしてオボチャマンは合成音声で、
「どうだ! 食いてぇだろ! 鉄! 金属だぞ! 食わせてやらねぇ!」
 と芋虫型に言っている。
 芋虫型は、
「あなた、やめておくんなまし」
 と、泣いている。
 嫌な場面を見てしまったなぁ、と思っていると、おれの姿に気づいたオボチャマンは声の代わりにロボット特有のビープ音を鳴らし、それからレアロボの棚を破壊。中からレアロボ六体全てを引きずり出す。それからレアロボ全てを芋虫型の口の中に一斉にねじ込んだ。芋虫型は、「プギー」と音を出し、スチームを噴出させて苦しむ。
 部屋がスチームで充満する頃、がちゃごちょと芋虫の胃の中が引っかき回される音が響きはじめた。
 音が止む。
 音は一時間以上続いたし、おれはそれを呆然とみていたし、芋虫にレアロボを突っ込んだオボチャマンは「ふっふっふ」という音声を延々ループさせていた。
 音が止むと同時に芋虫が吐き出したロボット生産ガチャのロボットは、ウルトラレアのオボチャマンだった。
「あっちゃー、ダブっちまったよ」
 それを言うので精一杯だった。
 元からいたオボチャマンもばつが悪そうな顔をしたが、生まれたてのオボチャマンの方も、なんだか不愉快な顔をしている。
 生まれたてのオボチャマンが言う。
「お父さん、恥ずかしくないの? 母さんも血が繋がってるよ。みんな、血が繋がってるのに」
 それに対し元からいたオボチャマンが、
「わかってらぁ」
 と返す。
 この気持ち悪い展開に固唾を呑んで震えていたら、部屋中のロボが一斉におれの顔を凝視した。
 そう、「血」が繋がっていないのは、この部屋ではおれ一人だけなのだった。
 もしも、ロボットにも血脈があるのなら、の話だが。

〈完〉
 
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