第55話 ニート飯

文字数 673文字

 おれは今日も部屋にひきこもり、ゲーム機で遊んでいる。
 食事は母が、部屋の前まで運んできてくれるのを、あとで部屋に持って行き、食べる。
 部屋に鍵はかけっぱなしなので、おれ以外、誰も部屋に入れない。
 母が置いていった食事を部屋に持ち込み、ごはんをもふもふ食いながら今日もおれはゲームで遊ぶ。
 エイリアンを銃で撃ち殺すゲームをしながら、生野菜サラダをばりぼり音を立てて食う。
 ばりぼり。ばりぼり。
 まるで今ゲームで殺しているエイリアンの屍を食っているみたいだ。
 ……と、ふと、血なまぐささに気づき、手元を見ると、生野菜に混じって肉片が入っていた。そういう料理もたしか存在するはずだが、おれは気にくわないのでぶちギレた。スマホで部屋の中から居間にいるであろう母親に怒鳴る。
「おい! どーなってんだ! 野菜の中に肉片入ってんぞ!」
「ごめんなさい。食べてあげて」
「ああん?」
「あの肉片、お父さんよ」
「親父だぁ?」
「あなた、部屋から出てこないからわからないでしょうけど、借金でうちは破産したのよ。お父さん、今朝、死んじゃったの、自分で」
「ッ!」
「だからね。お父さんのこと、忘れないように、食べてあげて。わたしも死ぬわ」
 電話は切れた。
 おれは部屋の鍵を開けて母のところまで飛び出した。
 ……と思うだろう。
 冗談じゃない。
 通話の切れたスマホをベッドの上に放り捨て、おれはゲームの続きをした。
 エイリアンたちは今日もおれに殺されに、うじゃうじゃ湧いて出た。
 今日の食事は部屋の外へ残飯として出しておいた。


〈了〉
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