第74話 枝切りばさみ

文字数 423文字

 高所用の枝切りばさみを買った。
 北風がびゅーびゅー吹くと、高い木から枝が折れて、落下して危なかったのだ。
 でも、この高所用枝切りばさみがあれば高い木でも大丈夫。
 枝をばちんばちんと切る。
 切りながら考える。
 人生にはいろんなルート、つまり分岐と、その分岐点がある。
 それを、自らのルートの枝を切ることによって、選択可能性を狭めているのではなかろうか。その狭めてできあがったルートこそが人生なのだ、と。
 ご老人が作務衣を着て木の枝を着るのを楽しみにする心境というのは、「自分が切ってきたルートを再確認」するためなんじゃないか。
 自分でいらない枝を木から切って「可能性」を切ってきたときのことを考える。
 いい趣味だな、と思った。

 枝を切り終えた頃、日が沈んだ。
 こんな北風が強い日は、コタツにミカンだ。
 やっぱり難しいことなんて考えるもんじゃないな。
 そう結論して、おれはまたひとつ、分岐点の可能性を切った。


〈了〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み