第57話 セイテンタイセイ
文字数 2,617文字
敵は三節棍を振り回し襲ってきた。
三節棍(さんせつこん)。打撃する棍棒がチェーンによってみっつにわかれている武器だ。
敵はそれをぐるぐる回しながら近づいて来る。
下手に殴りかかるとチェーンに絡め取られてしまう。
と、ガード一方でいたら、ジャブ程度に 三節棍をおれの身体に当ててくる。おれは腕で盾をつくるようにして受け流す。
だが、身が持たない。ダメージはたまる。じり貧だ。追い詰められてる。
壁際まで敵に追い詰められたとき、おれは思い切って壁に向かってジャンプし、ジャンプ中に壁を蹴って二段ジャンプ。敵の顔面に足をぶち込んだ。
吹き飛ぶ敵。
市街戦。ストリートファイトをしていた。
三節棍野郎を倒すと、遠くから笛の音が響いてきた。
激しい耳鳴り。
くらくらする。
「あんにゃろ……」
おれは笛を吹く主が近づいてくるのを、動けないまま見ている。
笛を吹いていたのはハーメルン。『西の三蔵』の異名を取る男だ。
こいつのどこが三蔵法師と肩を並べるんだよ。
「おやおや、殺しちゃいけませんよ、サル」
「うるせー。その笛やめろ」
「あなたが相手を殺さないと約束したら笛の音を止めましょう」
「わーったよ」
「よろしい」
口元から笛をおろすハーメルン。
「ハーメルンさんよぉ、南に向かえば向かうほど敵が強くなってるぞ。どーいうこった」
「ゲームバランスですよ」
「ゲームバランスぅ?」
「天帝はゲームがお好きなのです。悲劇と同じくらいに」
「ふーん」
「おや。感想はそれだけですか、サル」
「サルサル言うな!」
「でもあなた、人間ではないでしょう。セイテンタイセイさん」
「真名で呼ぶなっつってんだろ」
「もう一度、確認しましょう。わたしたちは南の砂漠にあるという『外典』を手に入れ、持ち帰らねばならない。先の『地下鉄戦争』の際、失われたデータのバックアップです。人間が人間であった頃のアナログデータ。クイーンはそれを欲してます。外典を国に持ち帰ること。命と引き替えにしても」
「よくわかんねーけどよ、ハーメルン」
「なんでしょう、サル」
「なにも目を付けられてるおれたちが動く必要はねーんじゃねーの。こういうのは隠密が適任」
話をしていると、ダッシュで駆け寄る村人A。
「た、助けてくだんせぇ! ハーメルン様ですよね! お噂は聞いておりますだ」
「なんですか」
「山が……。山が動いて巨大ロボになって……おらが村を壊そうとしておるんでさぁ!」
「なるほど。わかりました。近いのですか、村は」
「はい。ここから四キロ先でさぁ」
「ふむ。行きましょう、サル」
「はいよ」
☆☆☆
着いたとき、村の建物は全て潰されていた。
「あぁ……。そんなぁぁ」
崩れ折る村人A。
村だったその場所にはその場所には巨大ロボが鎮座している。
ドンキーなコングの動きでバナナ型ミサイルを手に持って、潰した建物をゴザのようにして座っているのだ。
ため息を吐いたおれは、勢いよく自分の頭の髪の毛をむしり、それを鋼鉄の針にして、バナナに飛ばした。
爆発するバナナ型ミサイル。
ロボは叫んだ。
「フゴー!」
「フゴー、だって。ああ、ダメだありゃ。知能がねーよ。どうする、ハーメルン。話できる相手じゃなさそうだぜ」
「おやおや、バカですねぇ、サル。雄叫びを上げるのが皆、知能がないと決めつけてはなりません。大体、なんでこの村を襲ったのか。彼の独断ではなさそうですが」
「フゴー!」
全壊した建物。
しかし、その中で一軒だけ壊れないで残っているものがある。
銭湯だ!
「なるほど。女湯か。ドンキーだもんな……」
おれはひとりごちた。
「サル。あの巨大ロボは女湯を神聖視しています」
「どーしてわかる、ハーメルン」
「キングコング的発想は美女をとっ捕まえてウッホウホと相場が決まっているからです」
「おれの考えと一緒じゃねーか」
「壊してないとなると中にはまだひとがいる可能性があります。あそこから出てきた湯上がり美人的女性を捕まえる気でしょう。ここには他に目立って女性が集まる場所はなさそうですし、湯上がり美人は個人的にも大好きですから! コングも満足間違いなしでしょう」
「ハーメルン。おまえ、バカだろ」
「サルほどじゃありません。見てみなさい」
タイミング良く銭湯から女性が出てきたら案の定捕まった。
「フゴー!」
「村が破壊される音がして、女湯から早めに出てきたらとっ捕まったって感じだな。いきなりでゴリラ型ロボに捕まるとは、気の毒だ……」
「フゴー!」
巨大ロボゴリラ、大満足!
「そこで作戦です。ゴニョゴニョ」
「まじで?」
「笛、鳴らしますよ?」
「やるよ! 仕方ねーなぁ」
おれは全裸になり、手を広げて武器を持たない丸腰だと相手に示しつつ、笑顔でゴリラロボに近づいた。
「フゴー!」
と、ゴリラが言った。
「フゴー!」
と、おれが返した。
すると、巨大ロボゴリラは涙を流した。
生体パーツが涙を流しているのだ。
「ナ・カ・マ!」
ゴリラロボが発音する。
「オ・マ・エ。ナ・カ・マ」
「仲間じゃねー!」
おれはぶち切れて、思い切りパイロキネシス能力でゴリラを燃やした。
「ほんぎゃー!」
「殺しちゃダメですよ、サル」
「ロボだぞ」
「AI入り。あとで人工知能の中身を調べますからね」
「そーかよ」
南に向かうのも大変だぜ、とおれは頭をかいた。髪の毛をむしった部分が痛い。
助けられた女性がおれの裸をまじまじと見るので、おれはそそくさと服を着た。
女性の方は服を着ている。着替えてから銭湯を出てきたのだ。
「無敵の主従関係……素敵」
女性は腐った妄想者っぽいので無視することにした。美人だったけど。
「ありがとうございました」
村人Aが泣きながら感謝する。
「いえいえ。と、ロボのAIは回収します。よろしいですね」
「はい。どうぞ」
おれはあぐらをかいて草地に座る。
「これ調べて、襲ってくる敵の情報が掴めりゃいいんだけど」
「敵対勢力が多いですからねぇ、我々は。村を襲ったというのも、山に化けてたというのも謎です。でも、我々のクイーンのために、先へ進みましょう」
「はいよ。クイーンのためなら、しゃーねーな」
で。
おれたちの旅は続く。
〈了〉
三節棍(さんせつこん)。打撃する棍棒がチェーンによってみっつにわかれている武器だ。
敵はそれをぐるぐる回しながら近づいて来る。
下手に殴りかかるとチェーンに絡め取られてしまう。
と、ガード一方でいたら、ジャブ程度に 三節棍をおれの身体に当ててくる。おれは腕で盾をつくるようにして受け流す。
だが、身が持たない。ダメージはたまる。じり貧だ。追い詰められてる。
壁際まで敵に追い詰められたとき、おれは思い切って壁に向かってジャンプし、ジャンプ中に壁を蹴って二段ジャンプ。敵の顔面に足をぶち込んだ。
吹き飛ぶ敵。
市街戦。ストリートファイトをしていた。
三節棍野郎を倒すと、遠くから笛の音が響いてきた。
激しい耳鳴り。
くらくらする。
「あんにゃろ……」
おれは笛を吹く主が近づいてくるのを、動けないまま見ている。
笛を吹いていたのはハーメルン。『西の三蔵』の異名を取る男だ。
こいつのどこが三蔵法師と肩を並べるんだよ。
「おやおや、殺しちゃいけませんよ、サル」
「うるせー。その笛やめろ」
「あなたが相手を殺さないと約束したら笛の音を止めましょう」
「わーったよ」
「よろしい」
口元から笛をおろすハーメルン。
「ハーメルンさんよぉ、南に向かえば向かうほど敵が強くなってるぞ。どーいうこった」
「ゲームバランスですよ」
「ゲームバランスぅ?」
「天帝はゲームがお好きなのです。悲劇と同じくらいに」
「ふーん」
「おや。感想はそれだけですか、サル」
「サルサル言うな!」
「でもあなた、人間ではないでしょう。セイテンタイセイさん」
「真名で呼ぶなっつってんだろ」
「もう一度、確認しましょう。わたしたちは南の砂漠にあるという『外典』を手に入れ、持ち帰らねばならない。先の『地下鉄戦争』の際、失われたデータのバックアップです。人間が人間であった頃のアナログデータ。クイーンはそれを欲してます。外典を国に持ち帰ること。命と引き替えにしても」
「よくわかんねーけどよ、ハーメルン」
「なんでしょう、サル」
「なにも目を付けられてるおれたちが動く必要はねーんじゃねーの。こういうのは隠密が適任」
話をしていると、ダッシュで駆け寄る村人A。
「た、助けてくだんせぇ! ハーメルン様ですよね! お噂は聞いておりますだ」
「なんですか」
「山が……。山が動いて巨大ロボになって……おらが村を壊そうとしておるんでさぁ!」
「なるほど。わかりました。近いのですか、村は」
「はい。ここから四キロ先でさぁ」
「ふむ。行きましょう、サル」
「はいよ」
☆☆☆
着いたとき、村の建物は全て潰されていた。
「あぁ……。そんなぁぁ」
崩れ折る村人A。
村だったその場所にはその場所には巨大ロボが鎮座している。
ドンキーなコングの動きでバナナ型ミサイルを手に持って、潰した建物をゴザのようにして座っているのだ。
ため息を吐いたおれは、勢いよく自分の頭の髪の毛をむしり、それを鋼鉄の針にして、バナナに飛ばした。
爆発するバナナ型ミサイル。
ロボは叫んだ。
「フゴー!」
「フゴー、だって。ああ、ダメだありゃ。知能がねーよ。どうする、ハーメルン。話できる相手じゃなさそうだぜ」
「おやおや、バカですねぇ、サル。雄叫びを上げるのが皆、知能がないと決めつけてはなりません。大体、なんでこの村を襲ったのか。彼の独断ではなさそうですが」
「フゴー!」
全壊した建物。
しかし、その中で一軒だけ壊れないで残っているものがある。
銭湯だ!
「なるほど。女湯か。ドンキーだもんな……」
おれはひとりごちた。
「サル。あの巨大ロボは女湯を神聖視しています」
「どーしてわかる、ハーメルン」
「キングコング的発想は美女をとっ捕まえてウッホウホと相場が決まっているからです」
「おれの考えと一緒じゃねーか」
「壊してないとなると中にはまだひとがいる可能性があります。あそこから出てきた湯上がり美人的女性を捕まえる気でしょう。ここには他に目立って女性が集まる場所はなさそうですし、湯上がり美人は個人的にも大好きですから! コングも満足間違いなしでしょう」
「ハーメルン。おまえ、バカだろ」
「サルほどじゃありません。見てみなさい」
タイミング良く銭湯から女性が出てきたら案の定捕まった。
「フゴー!」
「村が破壊される音がして、女湯から早めに出てきたらとっ捕まったって感じだな。いきなりでゴリラ型ロボに捕まるとは、気の毒だ……」
「フゴー!」
巨大ロボゴリラ、大満足!
「そこで作戦です。ゴニョゴニョ」
「まじで?」
「笛、鳴らしますよ?」
「やるよ! 仕方ねーなぁ」
おれは全裸になり、手を広げて武器を持たない丸腰だと相手に示しつつ、笑顔でゴリラロボに近づいた。
「フゴー!」
と、ゴリラが言った。
「フゴー!」
と、おれが返した。
すると、巨大ロボゴリラは涙を流した。
生体パーツが涙を流しているのだ。
「ナ・カ・マ!」
ゴリラロボが発音する。
「オ・マ・エ。ナ・カ・マ」
「仲間じゃねー!」
おれはぶち切れて、思い切りパイロキネシス能力でゴリラを燃やした。
「ほんぎゃー!」
「殺しちゃダメですよ、サル」
「ロボだぞ」
「AI入り。あとで人工知能の中身を調べますからね」
「そーかよ」
南に向かうのも大変だぜ、とおれは頭をかいた。髪の毛をむしった部分が痛い。
助けられた女性がおれの裸をまじまじと見るので、おれはそそくさと服を着た。
女性の方は服を着ている。着替えてから銭湯を出てきたのだ。
「無敵の主従関係……素敵」
女性は腐った妄想者っぽいので無視することにした。美人だったけど。
「ありがとうございました」
村人Aが泣きながら感謝する。
「いえいえ。と、ロボのAIは回収します。よろしいですね」
「はい。どうぞ」
おれはあぐらをかいて草地に座る。
「これ調べて、襲ってくる敵の情報が掴めりゃいいんだけど」
「敵対勢力が多いですからねぇ、我々は。村を襲ったというのも、山に化けてたというのも謎です。でも、我々のクイーンのために、先へ進みましょう」
「はいよ。クイーンのためなら、しゃーねーな」
で。
おれたちの旅は続く。
〈了〉