第49話 炬燵亀蹴球

文字数 668文字

 部室にコタツを設置した。
 コタツは魔性の力を秘めており、部活動はあやふやなものとなった。
 だいたいサッカー部なのにコタツでぬくんで、どうしろというのだ。
「あ、みかん取ってくんね?」
 部長が言う。
「自分で取ってくださいよ」
 おれは気のない返事をする。
「もうバレンタインの季節じゃね?」
 フォワードの三河が誰ともなしに言う。
「バレンタインなんてとっくに終わったって。もらえないから気づかなかったろ。甘い予感はドリブルですり抜けていった」
 おれがツッコミを入れると、三河はコタツの中でおれに蹴りを繰り出す。
「痛っ。サッカー部の蹴りは反則っしょ」
「おまえもサッカー部だろ」
 部長はコタツに入りながらうなだれた。
「はぁ……。サッカーとかもういいよ。これからコタツ部にしようぜ、ここ。コタツを亀の甲羅みたいにして、サッカーやるんだよ」
 おれはコタツ亀のサッカーを想像して部長に、
「コタツ亀サッカーなんて、SF小説みたいっすね。発想が」
 と、言った。
 部長は、
「あれ?」
 と、なにかに気づく。
「もしかしてこんな日常系じゃなく、この短編の作者は最初からコタツの甲羅を背負ってサッカーする小説を書けば良かったんじゃね?」
 おれは首を振る。
「いやいや、部長。そんな機転の利く作者だったらコタツの青春にシンパシーを感じる小説は書かなかったでしょうよ」
「それもそっか」
 部長は頷いてから、
「おれにみかん取って」
 と、サイドから再度言って、なにごともなかったかのように部活のだらだらを肯定した。


〈了〉
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