第80話 人形

文字数 512文字

 私の身体は義体だ。偽物の身体。人形ではないにせよ、サイボーグだ。
 昔話で王子さまの像から宝物が「王子さまの好意によって」取られていき、石の塊になってしまい、その王子さまの像は輝きを失い壊されて終わり、というものがあるが、私の義体化は、それに似ている。
 私が小学生の頃、身体の生体パーツを奪われてもいいとサインしてしまい、私は身体を根こそぎもがれたのだ。
 生体パーツ、つまり私の身体で貰った金で両親は逃亡し、私は腕、足、と次々にもがれ、身体中が機械の身体に取って代わることになってしまった。
 私、女の子なのに。いや、女性だからこその価値だった。胸だって発達した段階で殺がれた。
「人類に冷酷な恩返しをしてやりたいわ」
 私はそう思って生きている。
 だが、それも叶わないだろう。
 私の肺も目も、心臓さえも義体だ。皮膚も機械。
 それが功を奏してしまったから、私の人類への復讐も叶わない。
 核での世界全面戦争の後に生き残れたのは、私くらいしかいない。
 義体化された、人形もどきだけ。生身の人間は地球上からその姿を消しちゃったんだから。
 だから。
 私の冷酷な恩返しは、叶わない。
 憎しみの矛先も。


〈了〉
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