第59話 ヒトデ魂

文字数 2,251文字

 無敵の中学校要塞に忍び込んだのもつかの間、無数に出てくるアンドロイドドーベルマンに噛まれるわ吠えられるわで、かなり散々な目に遭いつつ司令部を目指すことになった。
 無敵の巨大ロボに変形する中学校、それがここ、私立ロイヤル中学校だ。別名、中学校要塞。宇宙から来る〈外敵〉を駆除するために戦う変形ロボになる建物である。
 忍び込んで帰った者はいない。要塞としても、変形ロボとしても無敵。
 だが、おれも一流の盗賊だ。巨大ロボの秘密である、謎の動力源を知り、奪うというミッションに胸を高めて要塞に侵入した。絶対ロボの動力源の秘密を持ち帰るぞ!
 なんとかアンドロイドドーベルマンを振り切って、建物に侵入、変形ロボ化する区画までたどり着けた。
 だが、司令部になっている教室で待ち受けていたのは中学校の制服を着たゾンビ生徒たちだった。
 みんな死んでる。
 声をかけても教室から返事はなかった。一クラス全員が着席しているが、こいつらみんな、屍のようだ。屍がノートに鉛筆でなにか書いて「授業している」。ゾンビ教師も黒板に数式を書いている。
 呆然としていると、アラームが鳴った。なぜアラームが鳴ったのか。それは、宇宙からの外敵が来たからだ。校内放送がそう流している。
 教室の教壇のゾンビ教師が黒板にチョークで「変形発進!」と書くと、机から立ち上がったゾンビ生徒たちが「うおー!」と気味の悪い声で唸る。
「全力発進! ロイヤルロボ!」
 アニメの主人公みたいな熱血漢の生徒がそう叫ぶと、ゾンビたちの胸に貼り付けてあるヒトデ型のワッペンが光彩を放つ。生徒たちはまた座る。すると机が裏返り変形、オペレーションシステムになる。
 そして戦いが始まった。
 揺れる揺れる。今、この建物は巨大ロボになっていて、外敵と戦っているのだ。
 固唾を呑んで外を映すモニタを見ていると、敵をロボがやっつけた。
 敵を倒すと、ロボが敵からなにかを回収した。
 それは、ゾンビたちが身につけているヒトデ型ワッペンだった。
 ヒトデは発光し、粒子になり、生徒たちのワッペンに吸い込まれ、チャージされた。
 校内放送で、「動力チャージ完了! お疲れ様でした!」と流れた。
 沈黙が訪れ、また「授業」が始まる。
 おれは盗賊だ。
 奪う物がわかった。
 この『ヒトデ型ワッペン』だ。
 これが生徒たちがゾンビとして動く動力。もしかしたら、ロボもこれで動いているのかもしれない。
 いただくしかあるまい。
 おれはゾンビの一人に近づき、胸からワッペンをむしり取る。
 ぐちゃり、と音がした。
 ワッペンがゾンビから外れると、そのゾンビ生徒は肉体が崩壊してミンチ状の腐肉の塊になった。
 すると、奪い取ったワッペンから、おれに向けて声がした。
「我々の戦争の邪魔をしないでくれるかな」
「しゃ、しゃべった!」
 おれはびっくりして飛び上がった。
「ふむ。ヒトデ型宇宙人が我々の本体で、身体は腐肉の塊でしかないのは薄々勘づいていただろう?」
「いや、全然」
 ワッペンだと思っていたのは、ヒトデ型の宇宙人だったのだ。おれは手にしているワッペン……いや、ヒトデ型宇宙人を凝視した。
「地球を守るというのは口実でな。ヒトデ型の魂が一揃い揃う……つまり〈外敵〉もエネルギーにしているこの魂が揃ったとしたらミッションコンプリートだ。……ミトコンドリアのように寄生して、地球人ならばコントロールできるから。外敵はコントロールできんが、な。外敵はこの侵略が許せない者たちなのだよ。奴ら全員を排除せねばならない」
「つまりヒトデワッペンでゾンビ化させてるお前らと、それを許せないやつが戦ってるんだな」
「そうだ」
「ならば!」
 おれは盗賊用具のひとつであるナイフをポケットから出し、それでヒトデ宇宙人を突き刺した。
 ヒトデは血を噴き出して、動かなくなった。しゃべらなくなった。死んだんだろう。
 異変に気づいたゾンビたちが、椅子から立ち上がる。
 おれは襲いかかるゾンビたちの胸のヒトデ宇宙人を突き刺していった。
 ゾンビたちは次から次へと、ただの腐肉になっていった。
「お宝なんてここにはなかった。発想が逆だ。侵略するためにヒトデは寄生しここにいる。侵略をを許せない宇宙人がやってくる。それを殺して、エネルギーにする。地球を守ってる秘密の要塞、変形ロボってのは嘘っぱちだったんだ!」
「その通りだ」
 人間が、教室に入ってくる。生きている人間だ。
「私は政府の者だ。貴様は見てはいけないものを見てしまった。……自分の手を見てみろ」
「手……だと?」
 ヒトデは死んでいなかった。触手がヒトデから飛び出し、おれの心臓を貫く。
 そして、ワッペンのように、服の胸のところに貼り付いた。
 頭の中で声がする。
「すまんが、貴様が見てきた世界の方が虚構なのだ。半世紀も前から、地球人の大半は我々に取り込まれ、地球は我々の植民地になっていたのだ。地球人などほぼ残っておらぬ。コントロールは最終局面を迎えているところだ。……貴様をここまで連れてくるよう仕向けたのは我々だ。貴様がこの本来の地球の現実に気づかないのでね、最後に謎解きをしてあげたのだ」
「なるほど、……ね。どうりで現代人はみんな、ゾンビみたいな生き方してると思えたわけだ」
「そういうことだ」
 触手は深々と刺さり、おれの肉体の魂は消えていき、ヒトデの魂におれの肉体は支配されたのだった。



〈了〉
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