第60話 ポスコ

文字数 1,167文字

 ニッポリノ星人はコタツで光合成する。光合成ではなくコタツ固有の熱エネルギーを生命活動のエネルギー源として取り込むのだが、地球人からすると葉緑素色のニッポリノ星人は、太陽光とコタツでダブルチャージする生命体に映り、彼らのエネルギー生産法を光合成と呼んだ。
 ニッポリノ星人は増殖していく。テクノユニットの有名なアルバムタイトル。そのジャケットのような、それは増殖で。
 ニッポリノ星人ははたして動物なのか植物なのか。それもまた問題だったし、食糧問題で困らない彼らの行動が読めない。自足しているように見えるのだ。
 私がこのニッポリノ星人が住むニッポリノ星に着いたのは三日ほど前だ。実は「皆殺しにしろ」と上司に言われて派遣されたのだ。宇宙戦艦が来る、その前の偵察に。
 自分がどう感じるかでこの星の住人が無事か皆殺しかが決まるのだから、困ったものだ。
 生殺与奪を握る器は、私にはない。……この場合は。
「シナサン!シナマコトさん!」
 私の名を呼ぶニッポリノ星人の女性の声がする。振り向くと星の案内人、ユウラクチョさんだった。
「シナマコトさん! 夕飯の支度デキテルヨ」
「ああ、今行く」
 すっかり来客扱いを受けていて心苦しい。
 それから数時間後。
 夜のベッドの中で、ユウラクチョさんが私に言う。
「ニッポリノ星はよいトコロ。ごはんおいしいし、女の子もオイシイ。何が不満?」
 ストレイトな物言いだ。しかし、ジャッジする日は迫っている。隠す必要はない。
「地球はもう、資源がないんだ。昔から資源の欲しい奴のやることは決まっている。いや、君は死なないだろう。だってこんなにセクシーだ。売買の対象になれる。皆殺し、というのは老人や子供や、労働力にならないタイプの男性の話さ」
「怖いワ」
「私の星ではサイバネティクスで君たちみたいに光合成手術する環境が揃っている。だからその逆もありなんだ。だからユウラクチョさんは地球人と同じようになって私と……」
「野蛮人! 地球人は野蛮ヨ! 光合成、ニッポリノ、ラブ&ピース! 私の身体の中はあなたたちよりあたたかい。ぽかぽか。あなたたちは冷たい。芯まで冷えてるヨ!」
 毛布から抜け出してユウラクチョさんが部屋を出て行く。
 確かに。地球人は冷たい。星の住人を一掃しようとしている。可愛い女の子は売り飛ばされ、あとは死か強制労働だろう。地球に資源がないから調達する。昔と変わらぬやり方で、今も地球人は動く。私はただ、今はこれしかないのではないか、と思っている。地球人が取る方法なんて。
 地球人の侵略した星は優に200を越えた……。
 もうそろそろ、侵略された星はポストコロニアルな戦争を地球に仕掛けてもいいんじゃいのか。
 誰が?
 誰が指揮を執る?
 そう、野蛮人である、私が!

〈完〉
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