第61話 ホワイトプリズンキャッスル(上)

文字数 1,577文字

 いわゆる『フェアリーテイル』(妖精物語)に興味を失ってしまったのはいつだろう。
 突きつけられてくる現実に対処してたら、いつの間にかフェアリーテイルとは疎遠になっていった。
 でも、それだって小学生から中学生に入るとかそのくらいの早い段階の話で、突きつけてくる現実は、高校生になった頃にはもう、おれの心臓を貫いていた。
 だからなのか。
 おれは高校一年生にして、学校を辞めた。
 恋愛のひとつくらいしてみたかったものだが、おれはそのままニートコースを走ることになった。
 部屋の中が自分の世界の中心で、家の外は外宇宙だ。進学も、ぐだぐだやってたら勉強することができなくなって終わった。
 なんの資格も取らず、学歴もなく部屋の中でぼーっとする。
 普通はニートにもニートコミュニティがあるものだが、それともおれは無縁だった。
 孤独との戦い。
 家族ともしゃべることはほとんどなく。
 『目的』『目標』となるものがなにもなかった。
 小説でも書こうか、と思ったことがある。
 しかし、書けないのだ。
 おれの中には「他人が不在」なのだ。
 ひたすら、ひたすら自意識が続く。
 それがおれの世界の全てだから。


 音楽プレイヤーでどこかの国のバンドの曲を聴いていた時のことである。
「白い城プロジェクトに参加しませんか」
 という誘いが来た。
 よくわからないが、おれの部屋の中に侵入してきた、セーラー服の女性が開口一番、そう口にした。
「白い城……? えーっと、君、誰?」
 おれは聴き返した。
「白い城とは、あなたが今はいている白いブリーフのような白い……」
「ひとの下着に口だしするんじゃねぇ」
 そうじゃなくてもブリーフ派は疎外されるのに。
 おれはぶち切れた。
 紳士肌着はたくさんの種類があるが、母に買ってくるのを任せていたらブリーフしか買ってこないのだ。自分は部屋から出たくないし。
「お前なんなんよ。ここでお前を襲ったっていいんだぜ」
「いや、ですから私はあなたをサポートするために来た白衣の天使!」
「ああ……介護とか看護とか、そういう関連の人か」
「ひらたくいえば」
「じゃあまずは二人でお医者さんごっこしよーぜ」
「脳の髄までえろげ脳ですね……」
 そこでセーラー服はごほん、と咳払い。
「えー、白い城プロジェクトというのは、あなたのようなどす黒い心の方を白い城のような場所にぶち込むことにより、クリーンな存在になれるという……」
「ブレインウォッシュ……」
「違います!」
「ふーん。でも心までどこかへ連れてくような言いぐさじゃないか」
「えへへー。そうなんですよ。人生の落伍者に若くしてなってしまった生徒さんたちを集めて一ヶ月の共同生活をしてもらうのがこのプロジェクトなんですよ。白い城とは学校施設です。まだテスト段階で。今回はモニターさんとしてあなたが選ばれました」
「莫大な金を請求……」
「しません。政府の補助金でまかなってます。国家ぷろじぇ……」
「帰ってくれ」
「いや、無駄です」
 スチャっとピストルを構えるセーラー服の女性。
 そしてなにも言わずに銃弾を発砲。麻酔銃だった。
 目がくらくらし、おれは横転した。

 そしておれは、ダメな奴らが揃って一ヶ月共同生活をするというプロジェクトに参加することになってしまったのであった。
 そこでおれは妖精物語を思い出すことになる。
 ……と、いかん。ページが足りない。
 そう、おれにも語れるストーリーが、ほんの少しだけど出来たのだ、この日から。ドキドキした妖精物語には届かないかもしれないけど。出来た。
 そこはリアルとコミュニケーション不全の接点で、孤独との向かい合い方を学ぶことができる場所だったのだ。
 こうしておれの人生が久方ぶりに前進する。

〈つづく〉
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