第84話 蜘蛛

文字数 507文字

「おまえ、頭の中、蜘蛛の巣が張ってるんじゃないか。のーみそから蜘蛛の巣を取り払ってなにか考えろよ」
「うーん、そうなんだけど……」
 僕は気が乗らない。
 頭を硬直させていた方が賢い、と考えるからだ。賢明というか。
 巨大な蜘蛛の巣が張られ、それがネットワークとなっている地球にはもう逃げ場なんてなく、なにを考えてるかわからない隣人同士が互いに監視しあう星になってしまったのだから。せめて頭の中を「無」にして、出来るだけ動かないのが、生きるのに必要な知恵になってしまったと僕は考えている。
 この蜘蛛の巣はもう取り払えない。
 これはもう、誰か大きな存在が監視しているのではなく、その中心には誰もいないのだ。
 市民が、市民の手によって好き勝手に監視し合っていて、その監視社会こそが市民の証になってるんだし、それが危機回避に繋がるっていうんだから、戻れないだろう。
 そして、「ミス」を犯した僕は、監視対象もいいところだ。実験動物だ。
「おい、聞いてんのかよ!」
 殴られた。
「なんか僕、蜘蛛の巣でがんじがらめになってる」
 また殴られた。
「なんか寝ぼけてるぜこいつ」
 そしてまたしても殴られた。


〈了〉
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