第40話 港でめると【虫杭21】

文字数 1,962文字

 反射炉波止場に隣接した工業港。資材を運ぶ斬の宮港。
 そこにわたしはいた。
 大きなコンテナをクレーンが掴んで移動してきているその真下に、わたしは気づいたら、いた。あのコールドスリープ病棟は存在しなかったのではないか、とさえ思えてしまう。

 わたしは走る。
 みんなと会うために。
 ネコミちゃん、ダックちゃん、イヌルちゃん。
 そんな名前の彼女らと会うために。
 でも、学園に続く美空坂を登っても、もう学校は破壊されていて、なくなっちゃったんじゃなかったかな。
 わたしの足取りはそう思うと重くなり。
 立ち止まる。
「これからどうしよう……」
 一瞬にして太陽の光から遮断される。影の中に、わたしがいる。
 なんだろう、と見上げると。
 クレーンから外れたコンテナがわたしの真上から落下してきた。
 目を丸くするわたし。
 咄嗟のことなので術式も浮かばない。
 目を閉じる。
 ぐしゃり。
 そう聞こえた気がした。
「あ、わたし、死んだ」
 そう思った。
「死んでないわよ」
 コンテナが真っ二つにぶった切られていた。
 刀で斬った?
 いや、手刀で。
 どっしゃーん、とものすごい音がして、二つにわかれたコンテナが左右に落ちた。
 コンテナの中身の工業用部品がそこら中にバラまかれる。
 大きな音がした直後、わたしと、わたしを助けた人のまわりに人が集まってくる。
 ここは危ないから人が容易には入れなくしている区画なんだけど……。
 どこに隠れていたのか、身なりの良いひとたちがぞろぞろと寄ってくる。
 みんな、二十代くらいの、外国人の男女たち、十人程度。
「え? え? え?」
 きょとんとするわたしに、わたしを助けた外国人の女性が日本語で説明してくれる。
「わたしたちは〈保険機構〉よ。〈虫歯の悪魔〉を倒しに来た。この国の人たちに任せられないもの」
 彼女は金髪を揺らしながら言う。
「ご苦労様、朽葉ラッシーちゃん。もう大丈夫よ」
「なんで、わたしの名前を」
「ラッシーちゃんはが小説を書くとき、プロットってつくるかしら」
「プロット……」
 わたしが『言葉遊び』の術式を使う〈文豪ミニ〉なのを知ってるかのような口ぶり。
「強度歯科の一人、あなたが接触したことがあるその一人が、この街のために立ち上がってくれたの。保険機構への資金提供。感謝しなくちゃね」
 こんな事態になったのは、こんな状況になるまでなにもしなかった歯医者のせいだ、とわたしは思ったけれども、でも、これからは助けてくれるのかな。
「物語はプロット通り進む。プロットを作成してくれたのよ、強度のある、歴史に残るであろう〈プロット〉を」
「強度歯科医の……〈シザーハンズ〉さんが?」
「その通り」
 プロットを?
 わたしら全員を、盤上の駒にしか、シザーハンズは考えていない。
 でも、プロットってどの段階から?
「港まではインダストリアルスラムのひとたちがどうにかしてくれた。港を離れたら制圧しなきゃならない場所がたくさんあるの。生徒会の連中が邪魔してて、取り合いになってるのよ制圧拠点。滅ぼさないとならないわね。この世界のため……それは『きっと』この国のためでもあるのよ」
 わたしは言った。
「争いはよくないよ!」
 言ってからわたしは、邪魔で取り合いが滞るなら、と『邪魔』を『ジャマー』、つまり『ジャミング』し、空間に展開した!
 集まったひとたちの電波障害を起こしたため、サイボーグかアンドロイドであろう集まった外国人たちの視界からはわたしは消えた。
 そしてわたしは、助けてくれたそのひとたちのおなかに向けて『虫杭』を撃ち込んでいく。
 断末魔。
 おなかから血を噴き出して、まず、助けてくれたお姉さんが絶命する。
 十人くらいいる全員にわたしは『虫杭』を撃ち込む。
 わたしは制圧を、『圧政を敷く』ようにして場を支配する。「せいあつ」だから「あつせい」だ。
「イレイザーッ!」
 文豪ミニの術式を……!
 歯槽膿漏(めるとだうん)化できるのは土地だけでない。
 人間を汚染させることだってできるのだ。

 ……一分後。
 わたしの周囲にはぐちゃぐちゃの肉のかたまりだけが残された。
「ラスボスはわたしなのだああああああああああああああああああ」
 わたしは覚醒した。
 もっともっと、支配圏を増大させる。
 港にいる保険機構員という不法入国者全員に『虫杭』を打つ。
 脳内も、身体も、次々と歯槽膿漏になっていく。
「まずは三角形の一角を邪魔したわ! 外部からの横やりに。あとは国と地方。生徒会とスラムね。全員消えちゃえばいいのだァァァ」
 わたしは叫ぶ。
「だってわたし、プロットをつくったあとで、壊す書き手だもん」


〈つづく〉
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