第37話 錯綜から始まる街の攻防【虫杭18】

文字数 1,185文字

「情報が錯綜してる。術式展開後すぐにコールドスリープは生徒会が破壊した? そして僕が生徒会役員になったから街を出た? どういうこった」
 斬の宮から徒歩五分の位置にある、元型町商店街、通称アーキタイプアーケード。
 その一角にある甘味処で、あんみつを食べながら生徒会と対立するグループ、インダストリアルスラムのエージェントと話をする。
 話して驚いた。
 確かに、僕とラッシーはこの街の虫歯がまだBからC2くらいの時は生徒会の仕事を請け負っていた。小学五年生の頃だ。
 だが、C4どろころかメルトダウンを起こしたあとは、学園も潰れちまったし、諸国漫遊しながら機会を狙っていたのだが、それが歪曲されたかたちで伝わっていたらしい。
 コールドスリープフィールド化を解かなきゃラッシーは病棟で被検体を続けなきゃならないだろうし、だが、街のパワースポット数カ所にうがたれた虫杭を撃破しなかった場合。人間ののーみそが〈脳内メルトダウン〉し、帰らぬ人となってしまうのが予想される。
 ラッシーを助けられない。
 だから、助けるために街を離れていろいろ仕込んでいた。だが、噂の中ではそうはなっていなかった。
 工業団地のスラム組織、インダストリアルスラムの秋田原は猫耳娘のネコミを使って接触してきて、なにを話すのかと思えば、
「あんたはどっちの味方なんだ」
 だ。
 僕はこの国の政府が斬の宮生徒会に一時的にジャックされたのを、どうにかしようとは思っていなかった。
 だが、あの猫耳娘から受け取ったホログラムメールによれば、
「全ては斬の宮で繋がる」
 らしい。
 おれと同意見だった。
 政府の軍部が無政府化したこの街になだれ込み、その舞台となるのは目に見えていた。
 繋がるなら、繋げてみようか、と思った。

 いや。

 勝手に全ては動き出す。
 だが、自分としてはどこから手をつければいいか、謎だった。
 一時出ていたゾンビーは影を潜め、蛆虫が湧くようになったこの街。毛虫やゲジゲジなんかも。それも巨大な奴。
 それら蟲を撲滅するためと称して港からは不法入国者を連れた保険機構の姿。
 しかし、虫歯の悪魔がどんな生き物なのか、わかっている奴はほとんどいない。
 スラムのお姫様、琴美嬢はラッシーと同じく捕囚されている。
 あいつらの扱いは思想犯だぜ。嫌になる。
 さて。
 インダストリアルスラムの秋田原は生徒会とコネクションを持つ僕だから接触を図ってきたのだが、残念。
 国の存亡より、ラッシーのことの方が先だ。

 秋田原に勘定を払わせて甘味処を出た僕は、薄染家の門とを潜る。本家の門だ。
 まずは本家のジジイどもと対話を。良い案があるかもしれねー。頼るのは嫌だったが、仕方なし。
 僕は秋田原に、「またな。機会があったら」と言って、バイバイと手を振った。


〈つづく〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み