第54話 トレジャー

文字数 679文字

 人生が雨降りの日のときは、黙って酒でも飲んで眠るしかない。
 運がないときは、なにしたってツイてない。酒を浴びてやりすごすしかないだろう。
 ただ、おれに運が巡ってきたときは、それを虫取り網を振りかぶるようにして捕まえなくちゃならないのだが……果たして、できることやら。
「実際問題として、おまえ、あんまり小説書いてないじゃん。つくって作品にした実物がなけりゃ、待っていたって無駄だぞ」
「確かに」
 年末。
 知人と酒を飲みながら、そんなことを話していた。
「おまえのつくってる作品自体に、力がなけりゃおしまいだしなー」
「むぅ」
 もっともだ。頷いていると、知人が言う。
「小説も財宝狙いのトレジャーハンターか賞金稼ぎか……もしくは西部開拓時代チックな奴だろ。そういうの、ダサいと思うんだよね」
「いや、生き方っていうか、書きたいから書いてるんだけど……ひとからみたら、そういう風に感じるよなぁ」
「ギャンブラーに近く感じる」
「うーむ。じゃ、いっそのこと西部劇かスペースオペラつくろう。そのままっぽいだろ」
「なにがそのままっぽいだ。なにに対してのそのままなんだよ」
「わからん」
「わからないのか」
「酒飲もう」
「ま、できるもんならやってみろよ」
「そうする」
 人生が雨降りの日は、黙って酒を飲むか、……でも、できることなら冗談でも飛ばしてるのがいい。つまり、無駄口を飛ばせる相手がいれば、もっといい。
 黙るか、無駄口か。
 どのみち、なにをするにしたって、口より手を動かして、自分が頑張るべきときに頑張れなきゃ意味ないんだけど。


〈了〉
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