第16話 【裏切り】最先端
文字数 893文字
メインストリーム(主流)から弾かれている自分が書く小説に僕は劣等感を抱いていた。
「メリー夏休みマース」
と言って鼻眼鏡付けて登場した友人に対し、咄嗟に
「祝うなら僕が書いた小説を褒めてくれ」
と言う僕は、承認欲求の塊なのかもしれない。つーか、なんだよ、メリー夏休みマスって。
「でも、君が書く小説はつまらないよ」
けろっとした口調で友人の鼻眼鏡は言う。
ちなみに鼻眼鏡とは、パーティーグッズの一種で、ありえないほど大きなゴム製の鼻とプラスチックのメガネが一体化したものを指す。
「主流文学が、僕は書きたいんだ」
「突っ張ってマニアックな方向に行ってたのは間違いだった、……と。まあ、お前自身が主流になって、流れを変えればいいじゃん」
鼻眼鏡は「センスのないこいつに元気をわけてくれ」と手を挙げ、元気玉のポーズをする。
ズビビビビビビビビビビィィィィィ。
……………………。
…………。
……。
いつの間にやら僕と鼻眼鏡は九十年代の電気街らしきところへ来ていた。
異次元である。
目からビームを発射するメイド服娘。アニメショップ店長の熱き魂の唸り。
それらが本物として存在する空間に来てしまっていた。
レイディオ会館には、球型タイムマシンがビル屋上付近に突っ込んでいる。
鼻眼鏡は言う。
「わかるかい? 君の小説は主流から外れているんじゃない。古いんだ。大丈夫。この世界線なら昔だから、君の小説は新しくて馬鹿売れだよ」
鼻眼鏡の友人は鼻眼鏡を残し、消えた。
ぽとり、と電気街のアスファルトに落ちる鼻眼鏡。
しかし、この世界線でも僕の小説が売れることはなかった。
なぜなら、この街は、十年以上前から最先端に近い場所で、当時から既に『尖りすぎていた』からだ。
尖ったものは、僕の古いものとはまた違った意味で、難物なのだ。
「認められるはずねーだろ!」
僕は叫んだ。
しかし、どうにも「裏切ったな」とは言いづらい。楽しいからだ。
せっかく友人に連れてきてもらったんだし、と思って満喫し。
僕はこの街の片隅で生きることにした。
〈了〉
「メリー夏休みマース」
と言って鼻眼鏡付けて登場した友人に対し、咄嗟に
「祝うなら僕が書いた小説を褒めてくれ」
と言う僕は、承認欲求の塊なのかもしれない。つーか、なんだよ、メリー夏休みマスって。
「でも、君が書く小説はつまらないよ」
けろっとした口調で友人の鼻眼鏡は言う。
ちなみに鼻眼鏡とは、パーティーグッズの一種で、ありえないほど大きなゴム製の鼻とプラスチックのメガネが一体化したものを指す。
「主流文学が、僕は書きたいんだ」
「突っ張ってマニアックな方向に行ってたのは間違いだった、……と。まあ、お前自身が主流になって、流れを変えればいいじゃん」
鼻眼鏡は「センスのないこいつに元気をわけてくれ」と手を挙げ、元気玉のポーズをする。
ズビビビビビビビビビビィィィィィ。
……………………。
…………。
……。
いつの間にやら僕と鼻眼鏡は九十年代の電気街らしきところへ来ていた。
異次元である。
目からビームを発射するメイド服娘。アニメショップ店長の熱き魂の唸り。
それらが本物として存在する空間に来てしまっていた。
レイディオ会館には、球型タイムマシンがビル屋上付近に突っ込んでいる。
鼻眼鏡は言う。
「わかるかい? 君の小説は主流から外れているんじゃない。古いんだ。大丈夫。この世界線なら昔だから、君の小説は新しくて馬鹿売れだよ」
鼻眼鏡の友人は鼻眼鏡を残し、消えた。
ぽとり、と電気街のアスファルトに落ちる鼻眼鏡。
しかし、この世界線でも僕の小説が売れることはなかった。
なぜなら、この街は、十年以上前から最先端に近い場所で、当時から既に『尖りすぎていた』からだ。
尖ったものは、僕の古いものとはまた違った意味で、難物なのだ。
「認められるはずねーだろ!」
僕は叫んだ。
しかし、どうにも「裏切ったな」とは言いづらい。楽しいからだ。
せっかく友人に連れてきてもらったんだし、と思って満喫し。
僕はこの街の片隅で生きることにした。
〈了〉