第75話 紫芋交渉人

文字数 642文字

 多脚型パワードスーツに身を包み、ガニメデへ。ガニメデとは木星の衛星である。
 そこに到着すると、交渉を行うために、紫芋型異星人がスーツケースを持って待っていた。
 紫芋は言う。
「あなたがた地球人は一度、目薬をさしてみた方がいい。あなたがたはなにも見えていない」
 パワードスーツのスピーカーで、おれはしゃべって応じる。
「言いたいことはわかります。むやみな戦争は避けましょう」
「そうじゃないのです!」
「では、どういうことなのでしょうか」
「はぁはぁ、腹を立てて思わずふかし芋になるところでした」
「はぁ……?」
「今の、笑うところです」
「は、はぁ……」
「我々の願いはひとつ。あなたの星の全ての干し芋をいただくことです。特に『くず芋』。かたちの悪いゆえに安値で取引される、愛くるしいあのくず芋です。我々は共食いの文化がある。その共食いの根を断ち切るため、異星の芋が必要なのです。このスーツケースには、地球では取れないレア金属が入っています。これでどうにか……」
 スーツケースを受け取る、パワードスーツのおれ。
「では、戦争はなし、と」
「ええ。よろしく。芋文化のことはわからないでしょうが」
「わかりますよ」
「え?」
「芋は、おいしい」
 パワードスーツの中でおれは舌なめずりする。
「僕らの星、地球で芋は植物でね。食べても罪悪感はないし、おいしい……」
「…………?」
「罪悪感のあるのも、おいしいかも」
「…………ッ!」
「焼き芋パーティ、しませんか?」


〈了〉
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