恐怖症の神様

文字数 542文字

「『明日は目が覚めないといいな』って歌った人、誰だっけ?」
「……誰だっけ」
「もう、綾ったら忘れてたの?」
「奈々もでしょ」
「私は綾が聴いてたのを隣で聴いてただけだから、覚えてなくて当然よ」
「そう」
「ああ、でも、なんだか黒い髪がすごく綺麗な人が歌っていた気がする」
「そっか」
私は奈々の細くなった手を握る。
強い薬のせいで、現実と夢、過去と現在もわからなくなっているか弱い彼女の手を握る。
「ねえ、奈々。なんで、いきなりそんなことを言うの?」
「その歌詞が素敵だと思うからよ」
「そう」
辛い現実よりも、素敵な夢を奈々は選びたがっている。
「じゃあ、奈々……私と一緒にそういう世界に行く?」
彼女が手を握り返し、頭を私の胸に預けた。
「綾となら……いいかもね」
胸にある死の色をした染みが広がって、優しく心を撫でるのがわかる。
2人で死ねたなら、幸せかもしれない。
神様が与えた試練に抗うための愚かで甘美な手段を、選びたくなる。
「馬鹿」
「綾こそ」
胸の中で奈々はそう言って眠り始めた。
彼女をベッドに寝かせて、その唇に口づけをする。
あの歌詞の後に続く言葉を彼女は思い出せないようだった。
歌詞は、こう続く。



太陽が昇った『明日』が来て、私を笑ったーーーと。



その歌詞に願いを込めながら、恐怖を与えようとしてる神様を呪った。

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