手袋
文字数 869文字
寒すぎて、肌が痛いとすら思う冬の日。
学校に行く途中、千穂が騒ぎ出した。
「寒い寒いさーーーむーーーいーーーー!」
「はいはい、うるさいわよ」
「だって、寒いもん!」
「わかってるから、大丈夫」
「もう、弥生!どうにかしてよ!」
「どうしろって言うのよ」
「……今日から千穂ちゃんだけ冬眠してもOK!って法律を作るとか?」
「そうね、永遠に寝てなさいな」
無表情にそう言うと、口をとがらせて千穂が抗議をしてくる。
「ひーどーい!」
「はいはい。でもね、千穂。酷いって言うけど、手袋も付けない、マフラーも付けない、カイロもしてこないアナタが寒いって言うのはどうにも納得いかないのよ」
「だってぇ……」
「だってじゃなくて、寒いって言うならちょっとは努力なさいな。カイロ一つでも、大分違うわよ?」
「で、弥生さんは寒いからと言って着膨れておりますのですわね?」
妙な言葉を使いながら、してやったりの顔でこちらを見る千穂の口に手袋を付けたまま指を入れて左右の限界まで開く。
「ひはははは、ほめんははい」
「余計なことは言わない方が良いわよ?」
「ふぁい」
口から指を出す。
「あ、そうだ」
千穂は、今、口から出したばかりの手の片方を握ると、そこにある手袋を奪い取った。
「ちょっ!返しなさい!」
「いーやーでーす!」
「寒いじゃない!」
「私だって寒いもん!」
「そんなの自業自得でしょ!」
「いいの、そんなの知らない!千穂、いっぱい温かくしてるんだから手袋ぐらい貸してよ!」
「ダメ!手は手袋しかしてないんだから、取られたら寒いでしょ!」
「じゃあ、寒くしなきゃいいんでしょ!」
「やってみなさいよ!」
「やるよ!」
千穂は私の手を取って、自分の制服のポケットに入れた。
その中は意外と温かく、みるみる内に手がポカポカとしてきた。
「ほら、あったかいでしょ?」
歯を見せながら、自慢げにそう笑う彼女。
「はいはい、そうね」
そう言いながら、私は彼女の手を少し強く握る。言葉なく、強く握り返されて、私は頬に熱が来るのを感じながら、自分の中にある彼女への気持ちが、この手から彼女に通じればと願っていた。
学校に行く途中、千穂が騒ぎ出した。
「寒い寒いさーーーむーーーいーーーー!」
「はいはい、うるさいわよ」
「だって、寒いもん!」
「わかってるから、大丈夫」
「もう、弥生!どうにかしてよ!」
「どうしろって言うのよ」
「……今日から千穂ちゃんだけ冬眠してもOK!って法律を作るとか?」
「そうね、永遠に寝てなさいな」
無表情にそう言うと、口をとがらせて千穂が抗議をしてくる。
「ひーどーい!」
「はいはい。でもね、千穂。酷いって言うけど、手袋も付けない、マフラーも付けない、カイロもしてこないアナタが寒いって言うのはどうにも納得いかないのよ」
「だってぇ……」
「だってじゃなくて、寒いって言うならちょっとは努力なさいな。カイロ一つでも、大分違うわよ?」
「で、弥生さんは寒いからと言って着膨れておりますのですわね?」
妙な言葉を使いながら、してやったりの顔でこちらを見る千穂の口に手袋を付けたまま指を入れて左右の限界まで開く。
「ひはははは、ほめんははい」
「余計なことは言わない方が良いわよ?」
「ふぁい」
口から指を出す。
「あ、そうだ」
千穂は、今、口から出したばかりの手の片方を握ると、そこにある手袋を奪い取った。
「ちょっ!返しなさい!」
「いーやーでーす!」
「寒いじゃない!」
「私だって寒いもん!」
「そんなの自業自得でしょ!」
「いいの、そんなの知らない!千穂、いっぱい温かくしてるんだから手袋ぐらい貸してよ!」
「ダメ!手は手袋しかしてないんだから、取られたら寒いでしょ!」
「じゃあ、寒くしなきゃいいんでしょ!」
「やってみなさいよ!」
「やるよ!」
千穂は私の手を取って、自分の制服のポケットに入れた。
その中は意外と温かく、みるみる内に手がポカポカとしてきた。
「ほら、あったかいでしょ?」
歯を見せながら、自慢げにそう笑う彼女。
「はいはい、そうね」
そう言いながら、私は彼女の手を少し強く握る。言葉なく、強く握り返されて、私は頬に熱が来るのを感じながら、自分の中にある彼女への気持ちが、この手から彼女に通じればと願っていた。