レモン色の教室で
文字数 1,198文字
3月に自分が卒業して、この学校に来なくなることが信じられない。
沙莉菜はそんなことを考えながら下駄箱を開けた。
推薦で進路が決まってしまった沙莉菜には、この時期の受験生の忙しさも、焦りもわからないでいた。
なんだか帰る気になれず、教室に戻る為に上靴を履きなおした。
教室に戻ると、既に誰もいなかった。遠くから運動系の部活をしている子達の声が聞こえる。
窓際にある自分の机に鞄を置いて、亜美の机に向かい、その表面を優しく撫でた。
ここで向かい合ってキスをした時のことを思い出す。
放課後。
傾いた太陽が放つ光が、レモン色のカーテンにろ過されて教室内に優しい明るさを落しこんでいたあの日、付き合ってちょうど一か月経ったのだから何か特別なことをしようということになり、どちらかが『キスをしたい』と言い出して、キスをすることになった。
初めてのキスはドキドキしたことよりも、止め時がわからなくて息が苦しかったことの方が思い出に残っている。
机に乗せている手を少し離して、人差し指の先で、あてもなく指を滑らせる。
「たまには……キスしたいよ」
指でぐるぐると円を描いてそう呟くと、後ろから胸を揉まれた。
「こらぁっ!教室で何しとるかぁっ!」
「んひゃあっ!」
驚き、どこから出したのかわからない声が出た。
「なーんちゃって」
ひとしきり胸を揉んだ後、悪戯して満足した顔をした亜美が背後から顔を見せた。
「沙莉っち、驚いたっしょ?」
「当たり前よ、もうっもーっ!」
牛のような泣き声をあげながら、沙莉菜が怒ると、亜美はますます笑顔になった。
「私の机をうにょうにょするなんて、沙莉菜チャーンは寂しかったのかにゃ?」
「さ……寂しくなんか……」
言い訳を心の中で考えるが、見つからない。口をモゴモゴさせていると、急に亜美が後ろからキスをしてきた。
初めてのキスとは違い、すぐに終わったそのキスの後、沙莉菜はもう一度せがむように目を閉じた。
「ダーメ」
唇をプニプニしながら、亜美はそのおねだりを却下した。
「なんで?」
「私が沙莉っちの大学に合格するまではダメでーす」
「……さっきしたじゃん」
「あれは……偶然唇がぶつかっただけです」
視線を泳がせながら、そう言い訳する亜美に呆れながら『はいはい』と言って、沙莉菜は亜美に抱き付いた。
「これはいいんだよね。キスじゃないから」
「う……うん」
亜美の平らな胸に耳を当てた。その鼓動が徐々に早くなっていくのがわかる。
けれど沙莉菜は顔を上げることが出来ないでいた。亜美を少しからかってやりたいが、頬が火を含んでいるかのように熱い。自分の顔が真っ赤になっているのが、用意に想像できたからだ。
亜美も同じように顔を夕陽以上に赤くしながら、沙莉菜が顔を上げないようにと願っていた。
日が落ち、教室が暗くなるまで抱き合っていた2人は、次の日に風邪をひくハメになり、仲良く同じ日に休むこととなった。
沙莉菜はそんなことを考えながら下駄箱を開けた。
推薦で進路が決まってしまった沙莉菜には、この時期の受験生の忙しさも、焦りもわからないでいた。
なんだか帰る気になれず、教室に戻る為に上靴を履きなおした。
教室に戻ると、既に誰もいなかった。遠くから運動系の部活をしている子達の声が聞こえる。
窓際にある自分の机に鞄を置いて、亜美の机に向かい、その表面を優しく撫でた。
ここで向かい合ってキスをした時のことを思い出す。
放課後。
傾いた太陽が放つ光が、レモン色のカーテンにろ過されて教室内に優しい明るさを落しこんでいたあの日、付き合ってちょうど一か月経ったのだから何か特別なことをしようということになり、どちらかが『キスをしたい』と言い出して、キスをすることになった。
初めてのキスはドキドキしたことよりも、止め時がわからなくて息が苦しかったことの方が思い出に残っている。
机に乗せている手を少し離して、人差し指の先で、あてもなく指を滑らせる。
「たまには……キスしたいよ」
指でぐるぐると円を描いてそう呟くと、後ろから胸を揉まれた。
「こらぁっ!教室で何しとるかぁっ!」
「んひゃあっ!」
驚き、どこから出したのかわからない声が出た。
「なーんちゃって」
ひとしきり胸を揉んだ後、悪戯して満足した顔をした亜美が背後から顔を見せた。
「沙莉っち、驚いたっしょ?」
「当たり前よ、もうっもーっ!」
牛のような泣き声をあげながら、沙莉菜が怒ると、亜美はますます笑顔になった。
「私の机をうにょうにょするなんて、沙莉菜チャーンは寂しかったのかにゃ?」
「さ……寂しくなんか……」
言い訳を心の中で考えるが、見つからない。口をモゴモゴさせていると、急に亜美が後ろからキスをしてきた。
初めてのキスとは違い、すぐに終わったそのキスの後、沙莉菜はもう一度せがむように目を閉じた。
「ダーメ」
唇をプニプニしながら、亜美はそのおねだりを却下した。
「なんで?」
「私が沙莉っちの大学に合格するまではダメでーす」
「……さっきしたじゃん」
「あれは……偶然唇がぶつかっただけです」
視線を泳がせながら、そう言い訳する亜美に呆れながら『はいはい』と言って、沙莉菜は亜美に抱き付いた。
「これはいいんだよね。キスじゃないから」
「う……うん」
亜美の平らな胸に耳を当てた。その鼓動が徐々に早くなっていくのがわかる。
けれど沙莉菜は顔を上げることが出来ないでいた。亜美を少しからかってやりたいが、頬が火を含んでいるかのように熱い。自分の顔が真っ赤になっているのが、用意に想像できたからだ。
亜美も同じように顔を夕陽以上に赤くしながら、沙莉菜が顔を上げないようにと願っていた。
日が落ち、教室が暗くなるまで抱き合っていた2人は、次の日に風邪をひくハメになり、仲良く同じ日に休むこととなった。