かわいいなんて嘘ついて

文字数 591文字

「制服姿がなんか恥ずかしいからバイト先教えない」
 と言っていたのに、私は智美にあっさりと見つかった。
 後でもつけられたかと思ったけど、彼女は表情を曇らせること無く「勘」とだけ言ってカウンターに座った。
 このカフェの制服はスカートがフリフリしていて、動く度にそれが微かになびくのがかわいい。
 それがやりたいが為にこのバイト先に入った。けれど、友達に見られるとなると話は別だ。
 恥ずかしさに死にそうになる。
「店員さん」
 わざとらしく私を呼ぶ智美に近付き、営業用のスマイルを向ける。
「ご注文ですか?」
「アイスココアとしゃちほこケーキ、あと」
「はい」
「写真いいですか」
「ダメでございます」
「冷たい店員さんだ」
「ルールですので」
「ぶーぶー、折角かわいいのに」
「かわいいとか言うなっ…」
 いつも教室でふざけた智美に怒る時みたいに大きな声が出て、慌てて声を下げた。
 少し店内がざわついていたお陰で、誰にも聞かれて無いようだった。
「かわいいとか……嘘言わないでよ、こんなとこで」
 小声で注意すると、智美が首をかしげた。
「ん~、本当のことだけどね」
 耳まで赤くなっていくのがわかる。
 私は智美の注文を繰り返しもせずに、そのまま調理場へと歩いて行った。
 俯きながら、自分の顔が緩みそうになるのを必死に堪える。
 頭の中で智美にバカバカと言いながら、そう言う度にうれしくなる気持ちが大きくなるのがわかった。

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