水着は、去年と一緒でよろしいですか?
文字数 683文字
自分が女という生き物であるのが嫌な瞬間というのは、山程ある。
けれど、それ以上に楽しいと思える瞬間があるから、私は女でいられる。
だけど今、その『嫌な瞬間』の前にいる。
毎年毎年更新される洋服の流行から少し外れる水着選び。
去年の水着を使えばいいのだけど、それは、自分の中のプライドが、というよりも、他の女の子の視線が痛い。
高校最後の夏休みだし、進学組の自分は海に行くのもプールに行くのも少ない回数だろう。たかだか二、三回しか使わない水着のためにお金を使うのも、なんだか馬鹿らしい。
「やっちゃん、決めた?」
水着売り場で鬱々と考える私の後ろから、泰美が声をかけてきた。
「いやー……どうせ海とかプールとか行かないだろうし、今年は買わなくていいかなー……って」
目線をそらして前を向くと、泰美が後ろから抱き付いて来た。
「んじゃあ、しょうがないねえ」
溜め息を吐きながら泰美が耳元でそう言ってきたので、少し悲しくなった。
就職を決めている彼女は、今年の夏休みは遊び惚けるだろう。
「特に意味もなく大学には行きたくないし、親、苦労させられないから」
三年生になる少し前、悲しそうに、でも、何かを悟ったかのような彼女の顔がいまだに忘れられない。
「でもさあ、来年は行こうねえ」
泰美が少し強めに私を抱き締める。その腕に軽く手を添えながら、呟く。
「来年だけじゃなくて、毎年行こうよ」
「当たり前だよお……そんなの、当たり前……」
Tシャツの背中に温かな染みが広がる。目の前の景色が水に溺れるのを防ぐために、上を向いた。
冷房の風が目に当たり、溜まり始めている涙を少しだけ乾かした。
けれど、それ以上に楽しいと思える瞬間があるから、私は女でいられる。
だけど今、その『嫌な瞬間』の前にいる。
毎年毎年更新される洋服の流行から少し外れる水着選び。
去年の水着を使えばいいのだけど、それは、自分の中のプライドが、というよりも、他の女の子の視線が痛い。
高校最後の夏休みだし、進学組の自分は海に行くのもプールに行くのも少ない回数だろう。たかだか二、三回しか使わない水着のためにお金を使うのも、なんだか馬鹿らしい。
「やっちゃん、決めた?」
水着売り場で鬱々と考える私の後ろから、泰美が声をかけてきた。
「いやー……どうせ海とかプールとか行かないだろうし、今年は買わなくていいかなー……って」
目線をそらして前を向くと、泰美が後ろから抱き付いて来た。
「んじゃあ、しょうがないねえ」
溜め息を吐きながら泰美が耳元でそう言ってきたので、少し悲しくなった。
就職を決めている彼女は、今年の夏休みは遊び惚けるだろう。
「特に意味もなく大学には行きたくないし、親、苦労させられないから」
三年生になる少し前、悲しそうに、でも、何かを悟ったかのような彼女の顔がいまだに忘れられない。
「でもさあ、来年は行こうねえ」
泰美が少し強めに私を抱き締める。その腕に軽く手を添えながら、呟く。
「来年だけじゃなくて、毎年行こうよ」
「当たり前だよお……そんなの、当たり前……」
Tシャツの背中に温かな染みが広がる。目の前の景色が水に溺れるのを防ぐために、上を向いた。
冷房の風が目に当たり、溜まり始めている涙を少しだけ乾かした。