ごめんなさいを伝えたくて

文字数 610文字

 梨香とケンカした。
 ケンカの原因はもう思い出せないぐらい下らないことだったのに、お互いに謝らないから、二人の間に流れる空気は日に日に重くなった。
 その重さに耐えられなくなったのは、梨香だった。授業が終わり、委員会の仕事で図書室に行ったら、図書室の奥にある一段高くなっていてカーペットのしいてあるスペースで体を定規のように真っ直ぐにしてうつぶせで寝ていた。
「何してるの?」
 声をかけると、頭だけを少し上げて、
「謝ってます……」
 謝るにしてはおかしな格好だった。どこの国の風習なのだろうか。
「にしては、なんだかおかしな格好だと思うんだけど?」
「土下座は手を付いて謝るから、もっと下手に出る感じで、こんな謝り方がいいかなと思って……オリジナルな謝り方を生み出しました」
 ああ、この子は本当にバカなんだ。しかも、並のバカじゃない、超ド級のバカだ。

 だけど。

 無言のまま地面に突っ伏している梨香の隣にいき、同じように体にまっすぐな定規を入れたかのように直線にして、うつぶせに寝転がる。
「ごめんね、梨香」
 私の声に反応するかのように、梨香も「私も……ごめん」と謝り返してきた。

 その後しばらくお互いの顔が見れなくて、少しの間地面に寝ていたせいで、お互いの額にカーペットの痕が付いているのを見て、笑いあった。
 この子がバカだなんて思った、だけど、自分もバカだ。
 揃ってバカなら、楽しい。
 涙が出るほど笑いながら、そんなことを思った。

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