何度でも、溺れる

文字数 842文字

 友達の奈々枝のうるささには、本当に困っている。
 毎朝私のベッドまで来て起こしに来るし、あまつさえ、中に入って添い寝してくる。毎度毎度やめろと言ってはいるのだけど『はい!』ってものすごくいい返事『だけ』はする。その次の日には忘れて、潜り込んでくる。
 お母さんに朝から家に上がってもらわずに、玄関で待ってもらうようにしてと言ったけれど『アンタが起きるのが遅いし、起こすのが楽だからね』と言われて、何もしてくれない。
 それに、奈々枝がまとわりついてくるのは家の中だけではなく、学校でもそうなのだ。
 幼稚園から始まり、小学校、中学校、そして、今の高校生になるまで、奈々枝はずっとまとわりついていきた。
 いつも私の周りをくるくる回りながら、楽しそうに何かを話している。
 男でも女でも、私が他の子と仲良くしているの見ると、目じりを下げて、首をがっくりとさせてうな垂れていた。
 つくづく、めんどくさい友人だと思う。
 だけど、私は奈々枝を傍に置いておきたいし、彼女もそれを望んでいると思っている。

 彼女が、私の友人関係に嫉妬し、うな垂れた日は、決まって私は奈々枝を誘って、二人きりで帰る。
 途中でコンビニ寄って、彼女の好きな甘いカフェオレを買い、そして、私の部屋で、コップもストローも使わないで二人でそれを飲み干す。

 そう、口移しで私達は飲みきるのだ。

 自分の味を混ぜた、甘くてほんのりと苦いカフェオレを。

 その度に、いつも私はこう思う。

 ああ、まるで犬を手名付けるための餌やりだ。
 自分の匂いを混ぜて、相手に与えて慣れさせる。
 そんな、躾のような行為だ。

 でも、躾けられているのは、どちらなのだろう。
 この味を知って、やめられないのは―――


 唇を合わせながら、薄く目を開く。
 奈々枝の瞼も、薄く開いていて、目が合う。
 とろんとしたその瞳を見ながら、自分の中で出かけていた答えが、甘い味に溺れていく。
 それを振り払おうともせずに、私は溺れることにした。
 多分これからも、こうするだろう。
 何度でも。
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