腕枕

文字数 661文字

 左手が痺れて動かない。
 もう、こんな状態が三日も続いている。
 その原因を作った張本人は、今、私の前で泣きながら頭を下げていた。
「どうしよう、ゆーちゃんの手が一生動かなくなったら……」
 私が彼女と一緒のベッドで寝た時に、寝にくそうだったので、枕代わりに左腕を貸したら、そのまま二人して寝てしまったのだ。
 彼女の頭を置いた場所が悪く、神経を圧迫されて、起きた時には左腕はまったく動かなくなっていた。
 昨日医者に行ったら、小難しい病名を告げられた。治らないモノではないが、長い場合は数か月単位で動かないとのことだった。
 驚きもしたが、治らない病気ではないとのことだったので、楽観的だったが、彼女はそうは思わなかった。
 どうなっているのかを告げると、目から大粒の涙をこぼした。
「ごめんね……私が普通に寝ていればよかったのよね……」
「いいよ……取敢えず治らない病気ではないから」
「でも……」
「いいよ、大丈夫だよ」
「ねえ、ゆーちゃん。私が出来る事があるなら言って。私、なんでもするよ」
「はいはい」
「いい加減に返事しないで!」
「わかりましたよ」
「もう、なんでそんなにニヤニヤしながら言うのよ!片手が動かないって大変だよ!」
 確かに、私はニヤニヤしていた。
 だって、この病名の別名があまりに嬉しかったからだ。
 女同士の私達に、世間からは送られない言葉で作られた病名。
「ねえ、メグミ」
「なに?」
「この、病気の別名を教えてあげる」
「は?」
「あのね……」
 ニヤニヤが止まらない。
 だって、この病名が『ハネムーン症候群』っていう名前なのだから。

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