背中が痛い

文字数 550文字

「ねえ、私がアンタを裏切ったらどうする?」
 困らせるような質問をさせたら、彼女は日本で一番だと思う。
 私が困る様な質問を平気でしてくるので、彼女が口を開く度に、頭が痛い。
 彼女が眠っているベッドの側面を背もたれにしているせいか、少しだけ背中も痛い。
「さあねえ、その時の私の気分次第じゃないかな」
「そういうの、ナシ」
 ベッドの上で少し動くと、その華奢な両腕を私の腰の辺りに回して、顔を私の耳に近づけた。
「ほら、早く教えて」
 媚びるように、誘うように、彼女がそう言う。
「そうね……ちゃんと殺してあげるわ、この手で」
 両手に自分の両手を重ねると、彼女が嬉しそうに手を動かす。
「うん……いいね……私、亜樹ちゃんになら殺されてもいい」
 耳元で、へへへと、小学生のように笑う彼女の声が聞こえたので、少しだけ顔を向けて、その唇を塞いだ。
 柔らかな舌が、少しだけ入り込んできそうになったので、おでこに手刀をして、引きはがした。
「今ここで、した方がいいの?」
「今は、嫌かな」
 彼女ははにかむように笑って、私に回していた手を離すと、またベッドの上に寝転がった。
 崩れてしまった体勢を立て直して、背中をベッドの側面に預ける。
 微かに残るキスの感触が消えないうちに、私は目を閉じた。
 彼女の夢が見られるように、と願いながら。

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