ジダンダ

文字数 541文字

「おっはよー!」
 マナミの背中に微かな柔らかさと、そして、確かな重さがかかった。
「だーかーらー……!」 怒りをこめながら振り向くと、同級生のアスカがニヤニヤしていた。
「いきなり背中にぶつかる挨拶やめろっての!毎回毎回お前の無い乳がぶつかって痛いんだよ」
 誰に聞かれても構わない、今、この言葉が言えるなら、という思いを声量に出しているかのようだ。
「んー、愛情表現だし?」
「やめろってば!もうっ、ウザい!」
 日向ぼっこで縁側に伸びる猫のように、背中でまったりとしていたアスカは振り落とされた。
 そのまま前に進もうとするマナミに聞こえるように、口を尖らせて囁く。
「じゃあ、やめよっかなー」
「そうね、やめなさい」
「じゃあ、マナミ以外にやろうかな」
「や……」
 アスカは卑怯だ。
 他の人にそんなことをするのを、簡単に容認なんかできない。
 こんな風にのし掛かられたら、慣れた人じゃないと怪我をするかもしれないのだ。
「もうっ、ウザいっ!」
 足で地面を蹴りながら『アタシにだけやれば』という言葉を飲み込む。こんなこと、言えない。目の前でニヤニヤしながら、そう言ってくるのを待つコイツの前では。
 頬に、熱が集まるのがわかる。だけど、それが怒りのせいなのか、恥ずかしさのせいなのかだけは、わからなかった。

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