重ならない日、だけど傘鳴る日で、重なる日

文字数 757文字

「ねえ……昨日のあのドラマ観た?」
 サナの言葉に、雨音が混じる。
 地面を弱く叩いている筈の雨音が、ミカの耳に届くのは、彼女の声に耳を傾け過ぎているからだろう。
 それでなくても、サナは話す声が小さい。
 逆にいつも大きな声で話してしまうミカとサナは、クラスでも妙な凸凹コンビとして認識されていた。
「あー、観た観た」
 ミカがそう言うと、サナは嬉しそうに笑い、頷いた。
「主演のコーヘイ君がさ『好きだ』って告白してる所でさ……」
と、話し続けるサナを見ながら、ミカは自分の顔が知らずに笑顔になっている事に気付いた。
 それがなんでなのかは、わからないし、別にわからなくてもいい。
 ただ、サナが嬉しそうに話しているのを見ると、胸の中に暖かい色の花が咲いたみたいなるのが、気持ちいい。
 それだけだ。
 でも、今日はその気持ち良さも半減だった。
 自分達の頭上には傘があって、それがお互いの距離をいつもよりも数ミリ離しているのだから。
 近寄りすぎて、傘を当てて謝り、また離れたと思ったら、知らないうちに近づきすぎてしまっていて、また、ぶつかる。
「もう、ミカちゃん。傘当たりすぎ」
「ごめんごめん。話し声が聞こえないから、つい寄っちゃって」
「はいはい、じゃあ、しょうがないね」
 カチン、と音がしてサナの傘が閉じられて、そのまま彼女はミカの傘に入り込んだ。
「これなら、聞こえるでしょ?」
「そう……だね」
 急な接近で自分の胸が早鐘を打つことに戸惑う。
 そんな中で、傘の柄を持つ手に、サナの手が添えられた。
「半分持つよ」
 ミカはただ、頷くことしか出来なかった。
 添えられた掌から、彼女に自分の戸惑いが伝わってしまうのではないか、なんてありもしない妄想をしながら、サナの話に相槌を続ける。
 いつの間にか、彼女の耳には、雨の音なんて入らなくなっていた。

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