第7話 陰謀
文字数 1,414文字
その後、人々は私のことなんか無視して話し合いを続けた。
私はうつむき、黙って耳を傾ける。
初めて聞く話ばかりだった。
それでも私だって、多少は理解できたわ。
陰謀はずっと前からこの国に張り巡らされてきたのよ。しかも伊賀組は、少なからずそこに加担してきた。
さほど驚きはしなかった。先代、先々代のお殿様の話題が出るにつれ、ああそうだったのか、とだけ思ったわ。言われてみれば、ずいぶんと不自然な連続死だったもの。
蜂須賀家当主は七代でいったん正統の血筋が途絶えてるから、八代、九代は隣国の讃岐 からご養子を迎えてるの。
その八代宗鎮 様はご存命だけど、ご実家の高松松平家が阿波のまつりごとに口出ししてくるようになったために邪魔になり、伊賀組が毒を盛ることになったんですって。
これは失敗に終わり、宗鎮様は命を取り留めたけれど、今も病気療養中。とても藩主の務めを果たせる状態にないから、それを理由に重臣たちが隠居させたようよ。
病床の宗鎮様は抵抗なさったみたい。
それで、讃岐から実の弟を迎えて徳島藩の後を継がせることには成功したの。だけどその九代至央 様は、襲封わずか六十日で急逝なさったのよね。
実はその前にも、宗鎮様は高松の分家のお血筋から重矩 様、次いで重隆 様というお方を養嗣子として迎えられているのよ。だけど重矩様は早世し、重隆様はこれまた病気を理由に廃嫡されたんですって。
つまり、このお二人は藩主にもならなかった。
もはやどこまでが本当の病気で、どこからが伊賀組の関わった陰謀なのか。私にはまったく判断がつかなかったけれど、とにかくすさまじい陰謀劇があったのよ。
そんなごたごたがあったせいで、徳島藩の重臣たちは「うるさいお隣さん」の存在に懲りたようね。
それで次のご養子は遠国からにしよう、ということになったのよ。阿波にちょっかいを出せないような遠い国であれば、内政干渉の心配がないから。
で、末期 養子として出羽秋田からやってきたのが、十代藩主、重喜 様。すなわち今のお殿様よ。
ご実家は二万石の小藩である上、阿波からはすごく離れてるから、しっかりと条件は満たしてるはず……だったんだけど、ご本人が阿波の重臣の言うことを聞かないのであれば、やっぱり始末するしかないのよね。
というわけで、この国では暗殺に次ぐ暗殺があったのよ。徳島が特別なわけじゃない。どこの国でもそんなものでしょ、きっと。
だから怖がるほどのことはないんだって思ったわ。私も淡々と、伊賀組としての務めを果たせばいいの。
それにしても、この国では、座席衆と呼ばれるご家老たちの力が強いのね。
しかも彼らが、それぞれ都合の良い人物を担ぎ上げてきた。
そして当代の重喜様は、たぶんこの山田家老とうまくいってないから、もう駄目だってことになったのよ。それで私が呼ばれたの。
何てことだろう。
私は山田家老の顔をちらっと盗み見た。他人の命をどうにでもできる。そういう人を見て、怖いというより悲しくなった。
穏やかそうな顔をして、その裏に鬼の一面を持ってる。そうであればこそ、人の上に立つことができるんだと思う。すさまじい権力闘争に、この人は打ち勝ってきたんだわ。
私だって、一応は知ってる。この国では藩主というお立場にある方に実権がなく、飾り物に過ぎないんだって。だけど、家臣によって簡単に首をすげ替えられるほど弱いとは知らなかった。本物の権力者はこっちにいたのよ。
私はうつむき、黙って耳を傾ける。
初めて聞く話ばかりだった。
それでも私だって、多少は理解できたわ。
陰謀はずっと前からこの国に張り巡らされてきたのよ。しかも伊賀組は、少なからずそこに加担してきた。
さほど驚きはしなかった。先代、先々代のお殿様の話題が出るにつれ、ああそうだったのか、とだけ思ったわ。言われてみれば、ずいぶんと不自然な連続死だったもの。
蜂須賀家当主は七代でいったん正統の血筋が途絶えてるから、八代、九代は隣国の
その八代
これは失敗に終わり、宗鎮様は命を取り留めたけれど、今も病気療養中。とても藩主の務めを果たせる状態にないから、それを理由に重臣たちが隠居させたようよ。
病床の宗鎮様は抵抗なさったみたい。
それで、讃岐から実の弟を迎えて徳島藩の後を継がせることには成功したの。だけどその九代
実はその前にも、宗鎮様は高松の分家のお血筋から
つまり、このお二人は藩主にもならなかった。
もはやどこまでが本当の病気で、どこからが伊賀組の関わった陰謀なのか。私にはまったく判断がつかなかったけれど、とにかくすさまじい陰謀劇があったのよ。
そんなごたごたがあったせいで、徳島藩の重臣たちは「うるさいお隣さん」の存在に懲りたようね。
それで次のご養子は遠国からにしよう、ということになったのよ。阿波にちょっかいを出せないような遠い国であれば、内政干渉の心配がないから。
で、
ご実家は二万石の小藩である上、阿波からはすごく離れてるから、しっかりと条件は満たしてるはず……だったんだけど、ご本人が阿波の重臣の言うことを聞かないのであれば、やっぱり始末するしかないのよね。
というわけで、この国では暗殺に次ぐ暗殺があったのよ。徳島が特別なわけじゃない。どこの国でもそんなものでしょ、きっと。
だから怖がるほどのことはないんだって思ったわ。私も淡々と、伊賀組としての務めを果たせばいいの。
それにしても、この国では、座席衆と呼ばれるご家老たちの力が強いのね。
しかも彼らが、それぞれ都合の良い人物を担ぎ上げてきた。
そして当代の重喜様は、たぶんこの山田家老とうまくいってないから、もう駄目だってことになったのよ。それで私が呼ばれたの。
何てことだろう。
私は山田家老の顔をちらっと盗み見た。他人の命をどうにでもできる。そういう人を見て、怖いというより悲しくなった。
穏やかそうな顔をして、その裏に鬼の一面を持ってる。そうであればこそ、人の上に立つことができるんだと思う。すさまじい権力闘争に、この人は打ち勝ってきたんだわ。
私だって、一応は知ってる。この国では藩主というお立場にある方に実権がなく、飾り物に過ぎないんだって。だけど、家臣によって簡単に首をすげ替えられるほど弱いとは知らなかった。本物の権力者はこっちにいたのよ。