ライスボール

文字数 2,085文字

 スティーヴが初めてウェイをリリアのところにつれていった時、彼は手に竹のかごを下げていた。
 ノックをする必要もなくドアが開き、リリアが笑顔を見せる。
「いらっしゃい ウェイ君 うれしいわ、やっと会えて」
「僕もスティーヴからシラトリ大尉のことを聞いて、お会いできるのを楽しみにしていました」
「大尉じゃなくて、リリアでいいのよ」
 リビングに招き入れられ、ウェイが竹かごを差し出す。
「これ、おみやげです」
「あら」
 かごのふたを開けると、薄茶色の包みが幾つか入っている。このラッピングは確かタケノコの皮だ。ニューイングランドでウェイにご飯を食べさせてもらっていた頃、時々調理に使われていたのを覚えている。
「なんだか素敵」
 促されてリリアが包みの1つをていねいに開くと、白い三角形のものが3つほど並んでいた。
 リリアが目を輝かせる。
「……これって もしかしたら」
「ライスボールです。おかずをご飯に包んで握ったものです。日本語ではオムスビとかオニギリとか呼ぶんですよね?」
「うれしい 日本の古い物語や風物の本を読むと出てくるの。いろいろ想像して一度、作ってみたんだけど、うまくできなくて」
 リリアが入れてくれたお茶と、包みをほどかれたライスボールがテーブルに並ぶ。
「お皿と、ナイフとフォークがいるかしら?」
「いえ 手で食べた方がおいしいと思います」
 リリアがライスボールを手にとり、神妙な表情でゆっくりと味わう。静かに何かを感じとるようにしていたが、やがて言った。
「初めて食べるのに なんだか懐かしい」
 ウェイがにっこりする。
「食べ物の記憶って、世代を超えて遺伝するんじゃないかと思うことがありますね」
「これは普通のお米と違うのね?」
「アメリカで一般に栽培しているのは、ゆでて調理する用の長粒種です。ベースのカフェテリアで使ってるのもそうですね。粘りがないから、握っても崩れてしまうんです。
 粘りのある短粒種のお米だと、ちゃんと形になりますよ」
「そうだったのね そのお米って、どこで手に入るのかしら」
「ニューイングランドにいた時は週末に都市に出て、アジア系の食料品店を回っていました。こちらでもたぶん見つかるんじゃないかな。
 サウスパシフィック州の一部で作っているそうで、それがあちこちのアジア系のお店に少しずつ流れてくるんです」
「そうなのね。昔の写真で見たんだけど、黒いおむすびというのもあるのよね?」
「はい ノリという日本の特産の海藻で包んでいたみたいですね。探したんですけど、さすがにそれは手に入らなくて」
 リリアが懐かしく感じる味って、どんなものだろう。
 スティーヴも一つとり上げて頬ばった。
 わずかな塩気以外にほとんど味のないライス。その中に、しょっぱくて酸っぱい漬物(ピクルス)みたいなもの……?
 反応に気づいたリリアとウェイが笑う。
「スティーヴにはたぶん、こっちの方がおいしいよ」
 ウェイが別の包みを開いてくれる。
 頬ばると、馴染みのあるマヨネーズとツナの味が口に広がる。
「うん こっちの方がいいな」
「ウェイ君 今度、作り方を教えてくれる?」
「はい 短粒種のお米も余分があるから持ってきます」
「ありがとう うれしい。
 それで……ウェイ君は私と同じタイプなのよね?」
「はい スティーヴにそう聞きました。だからテレパシーの能力を伸ばしたり、フィールドの作り方を教わるといいって」
「アンディとのレッスンが一区切りついたから、じゃあ、来週から始めましょうね。
 ジュピターも時々、同席してかまわないかしら?」
「少佐ですか? ……はい」
「私たち共感型は、まわりの人間の感情を感じとってしまうでしょ。そして感じるということは、自分の中の反応を刺激されたり、影響を受けるということ。それは避けられない。
 そして共感型の能力を伸びると、カバーする距離が広がって、触れる人間の数が増える。能力が強まるほど、他人の感情というインプットの量が増える。
 だから共感型の能力を安全に伸ばすためには、それに耐える心の安定性が必要なはずだって、ジュピターは考えてるの。
 本人の処理能力を超えてインプットのキャパシティを上げてしまうと、精神の安定性に関わるって」
「……わかります。まわりの人の気持ちを感じることは止められない。だから自分が関わりたくないものは雑音として、意識の外に逃がさないといけない。
 でも処理しないといけない雑音の量が増えると、それだけでエネルギーを消耗しますよね」
「その通りなの。だから能力を開発しながら同時に精神の安定性をモニターして、その最適なバランスをつかみたいとジュピターは考えてるの」
「すごいな もうそんなことまで考えられているんですね。
 もちろん僕も使ってください。
 僕たちの能力について、できるだけたくさんのことが確かめれれば、後から来る仲間たちのためにも役立ちますよね」
 2人が笑顔でお互いを見る。
 共感型どうしだと、心の感触としてわかり合うということができる。全部を言葉にしてしまわなくても、心の触れ合いを通して気持ちが伝わる。
 よかった。リリアとウェイはいい友人になれるな。
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登場人物紹介

ユリウス・A・アキレウス
アメリカ境界州ベースのエリート行政士官。思考力に優れ、意志も強く有能だが、まわりからは「堅物」「仕事中毒(ワーカホリック)」と呼ばれている。
あだ名 「ジュピター」(士官学校でのオペレーションネームから)

リリア・マリ・シラトリ
アキレウスの副官でコミュニケーションの専門家。親切で面倒見がよく、人間関係に興味のないアキレウスを完璧に補佐する。料理好き。

ワン・タイフ

境界州ベースの陸軍士官。快活で決断力があり、喧嘩も強い。荒くれ者の兵士たちからも信頼が厚い。

あだ名 「虎」(部下の兵士たちが命名)

ナタリー・キャライス
境界州ベースのシヴィリアンスタッフで、すご腕の外科医。頭が切れ、仕事でも私生活でもあらゆることを合理的に割り切る。目的のためには手段はあまり選ばない。

スティーヴ・レイヴン
境界州ベースに配属されてきた見習い訓練官。明るく純真で、時々つっ走ることがある。大切な夢を持っている。絵を描くのが趣味。

リウ・ウェイラン
ニューイングランド州ベースで隊附勤務中の士官学校生。優しく穏やかで、ちょっと押しが弱い。絵を描くのが趣味だが料理も得意。

ダニエル・ロジェ・フォワ
ニューイングランド州ベースの陸軍士官。生真面目で理想主義。弱い者を守る気持ちが強い。

アンドレイ・ニコルスキー

ニューイングランド州ベースの管制官。人好きで寂しがり。趣味は木工で、隙があれば家具が作りたい。

エリン・ユトレヒト

ニューイングランド州ベース技術局のシヴィリアン・スタッフ。機織りやその他、多彩な趣味があって、人間関係より趣味が大事。

マリア・シュリーマン

ノースアトランティック州のシヴィリアン・スタッフ。優しく繊細で、少し引っ込み思案。

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