影
文字数 1,457文字
テレパスたちへの指示を聞いていたタイガーは「本当にそんなことができるのかよ」と眉を上げ、ジュピターは「当たり前だ」という表情でうなずいた。
オフィスに集まっていた顔ぶれは、いったん、それぞれの仕事場に向かうために出ていった。まわりの目には、何も変わったことはないように繕わなければならない。
スティーヴはずっと黙り込んでいた。
リリアは彼を1人にしておくことはできないと感じ、仕事を休ませ、ウェイに頼んでそばについていてもらうことにした。
ナタリーはスティーヴをちらりを横目で見、それから出ていった。
ベース内では、憲兵ないし
と言っても、ベース内の秩序と規律はもともと外の一般社会よりもずっと高い。ベース内の生活水準は民間とは比べられないほど高く、その生活を手放すようなリスクは誰も冒したがらなかったというのもある。
ベース内で警備局が対処しなければならない問題の大半は、酔った
ベースの外の民間地区では、警備局は
機構の管理下で学校に通うすべての子供たちは12歳で心理検査を受け、変異種と判定されれば、警備局の付き添いで「保護施設」に送られる。それ以外の状況で発見された変異種の保護にも警備局が当たる。
警備局はその任務の遂行に、一般警察よりもはるかに大きな権限と現場での裁量権が与えられていた。そのため、何も恐れる必要のないはずの善良な市民たちも、その存在に何とはない不安を抱いていた。
時おり流れてくる警備局についての噂にも、それは表れていたかもしれない。「発見された変異種が拘束に抵抗し、武装した警備局員によって射殺された」といったことが、人々の間でささやかれた。
もちろん機構はそんな事件の発生を全面的に否定したし、実際にそんな事例があったとしても、外部の人間にそれを確かめる術はない。
警備局はベースの中でも機構の中央に直接的につながる組織系統で、唯一それに監督権と命令権を持つのは各ベースの司令官だけだった。
リリアにとっても警備局は、つねに影のようにそこにあって、言葉にしがたい不安をかき立てる存在だった。それから目をそらしたい衝動と、しかしその動向には注意しなければという思いが、意識の深いところでぶつかっていた。
だが今はもう目を背けることはできない……。
(でも私たちには、こんな大きな力を持った組織に向かい合う準備ができているのだろうか……)
抑えようとしても不安は湧き出てくる。
いつかは彼らと関わらなければならなかったにしても、せめてもう少し時間があれば……もっと仲間が増えて、ベースの中にも足場を広げて、仲間を守る力を蓄えることができていれば……。
でも今はそんなことは言ってはいられない。
自分はジュピターとタイガーを信じている。2人と、そして仲間たちが、きっと何とかしてくれる——マリアをとり戻してくれる——
(だから気持ちを落ち着けて もう少し待って スティーヴ……)
(ログインが必要です)