テレキネシス
文字数 3,041文字
物体を破壊できるほどパワーのあるテレキネティックたちは、スティーヴを除いて全員が陸軍[7D]に所属していた。いずれも意志の強い、チャレンジにひるまない性格で、タイガー同様7Dで働くのがいかにも向いていた。
ベースの士官の中から参謀部入りの候補に上がるのは通常は准将以上だ。しかしタイガーは大佐に昇進してすぐ、古参の7Dの将官たちの全面的な後押しで参謀部入りした。
その時点で軍士官は前方勤務に出る義務はなくなるが、タイガーは最前線で指揮をとり続けることを選んだ。
同時に拡大された権限を利用し、7Dにいる仲間たちをすべて自分の直属の部隊に集めた。そのため7Dにいるテレキネティックたちはいつも一緒に出かけて一緒にベースに戻る。
2、3か月の前方勤務から戻ると3週間の休暇が与えられる。戦場から無事戻ってきた仲間を共感型たちは大喜びで迎えた。そして「7Dの坊やたちも残さず防御ネットワークに入れる」というドクター・マリッサの掛け声で、頻繁なお茶会に引っぱっていかれた。
タイガーは仲間の士官たちと定期的に顔を合わせ、いろいろと案や計画を練った。
機構の統治区域が社会主義カナダと接する北部州では、7Dの仕事は実質、州境警備のようなものだ。しかし境界州はその南部、かつてのノースカロライナからテネシー州を横切る形で反乱軍の占領地域に接する。機構側は反乱軍を鎮圧して南部の領土を奪回することを目指し、反乱軍は激しくそれに抵抗して、激しい戦闘が続いていた。
タイガーと仲間たちはその実戦を、自分たちの能力を伸ばす機会としても使っていた。
テレパスたちが能力を磨き、仲間を守るための防御ネットワークを着々と形成し、それが機能し始めるのをテレキネティックたちも見ていた。
それに関しては自分たちに何ができるわけでもないが、何となく「負けてはいられない」という気持ちを抱いていた。
「いつか自分たちの力が仲間を守る時が来る」という予感めいたものを、どこかで感じていた。
休暇期間が終ると、次の前方勤務まで訓練や演習が再開される。演習にはスティーヴも時々、視察の名目で加わった。
ある日の夕方、タイガーはいつものようにウェイの作った上等な夕食を囲み、スティーヴやダニエルと話をしていた。
話題が「テレキネシスの限界」ということに及ぶ。
テレキネシスを使うには対象を視認できる必要があった。距離は離れていてもいいが、対象を目で見て意識に捉えられる必要がある。視認さえできれば、戦車のキャタピラを引きちぎって走行不能にすることもできた。
前線では敵の装備が突然壊れるようなことがあっても、何か普通ではないことが起きていると疑う者はいない。機構軍でさえメンテナンスのリソースは潤沢ではなく、車両や武器の故障は日常的だ。
ましてや反乱軍の装備に故障が起きても不思議ではないと、一般の士官や兵士たちは思っていた。何よりそれは彼らにとってありがたいことで、タイガーや彼の士官たちが率いる部隊ではそういう「偶然」が多いということを、気に留める者はいなかった。それは単に「強運」の印だと思われていた。
タイガーにとっての目下の懸案は、戦場でテレキネシスを使う際に、対象の破壊には視認が必要だという制限を超える方法を探すことだった。
スティーヴが言った。
「ダニエルは手りゅう弾の信管をねじ切って無力化していたよね。あれは内部構造を記憶することで可能になってたんだよね」
「ああ だが、そのためにタイプの異なる手りゅう弾を分解しては組み立て、それぞれの構造を完全に頭に入れる必要があった。そもそも単純な構造だから、暗記して視覚化するのは難しくない。
それに手の中に入るんで、パーツの位置関係を感覚的につかみやすいというのもあったな」
「反乱軍の戦車や装甲車の設計図を手に入れられれば、内部からそれを破壊できないかと思ったんだけど」
「なるほど 設計図のイメージを視認の代わりに使うということか……」
タイガーは言った。
「面白い 試してみるか」
とりあえず兵士が標準装備で使う小銃は分解して調べることができるし、設計図も手に入る。実験と試行錯誤を繰り返し、設計図を目の前に置いて構造の内部が正確に視覚化できれば、視認しているのと同じように選んだパーツを破壊できることはわかった。
「悪くない だが実用にはもう少しだな。反乱軍の戦車は南部連合の独自設計で、こちらに設計図などないからな」
「で、こいつは何だ? 見た感じはテレパスだろうが」
士官候補生は敬礼の手を降ろした後、そのまま緊張した表情でタイガーとジュピターの間に立っている。
「タイプとしては分析型だが、人間の心を読むのには向いていない。だが物体の構造を読みとることができる」
准尉が驚いた顔をする。
「……これまで自分の能力については誰にも話したことはなかったのに……心を分析しただけで、本当にそんなことまでわかるんですね」
「あいにく、こいつの分析はきわめて正確だ。
それで、小僧 物体というのはどの程度のものまでだ? でかいものや機械類もいけるのか?」
「どんなものでも目の前にあれば、中の構造を見ることはできます」
「戦車でもか?」
「はい」
「7D志願か?」
「志願は8Dのつもりでしたけど お役に立てるのであれば……」
「なら俺のところへ来い。お前の能力を徹底的に活用させてやる」
「活用って……実戦でということですか?」
「もちろんだ」
「実戦で……能力を使ってるんですか? 他の人間の前で?」
「そうだ 注意はしているが、戦場のどさくさだからな ここまでばれる気配もないな」
スティーヴやダニエルを呼び、准尉を伴って、ベースから離れた車両廃棄場に行く。ここには廃用になった戦闘用の車両が放置されていた。
タイガーは一台の古い輸送用装甲車を指さした。エンジンなどは再利用のためにとり外されているが、実験には十分だ。
「准尉のテレパシーでの通信能力はこれから伸ばす必要がある」とジュピターに言われていたので、スティーヴが准尉とダニエルの心をフィールドを通してつないだ。
准尉に簡単なイメージを幾つか思い浮かべさせ、それがダニエルに届くのを確認する。
准尉が装甲車を見つめる。いったん意識を集中し始めると、それまで緊張気味だった若者の表情が変化する。
「OK」
横にいたダニエルがうなずき、装甲車の中から何かが折れてぶつかる音がした。調べると、ハンドルが根元からもぎりとられて床に落ちていた。
何度か実験を繰り返して装甲車の内部を少しずつ壊しながら、准尉が内部構造を読みとって、それをテレキネティックの心に投影できれば、破壊作業が可能なことが確認された。
ジュピターによれば、准尉が仲間とテレパシーを使うようになって通信能力が伸びれば、直接テレキネティックの頭にイメージを投影できるようになるということだった。
「どうだ ダニエル」
「いや まさかこんな共同作業が可能とは……これなら戦闘機でも落とせますね。反乱軍がそんなもの持っていればですが」
タイガーは満足げにうなずいた。
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