第54話 昨日から

文字数 895文字

 昨日から、情緒不安定。
「安定したら、情緒なんて、なくなっちゃうじゃないですか」
 大滝さんの音楽、聴いてたら、力が抜けて、涙ぐんで、それから、かな。
「モロに浴びたんだね。食らったわけだ、情に、ダイレクトに」
 甲斐バンドでも聴いて、持ち直そうとしてる。『シネマクラブ』『嵐の季節』79年の、NHKホールのライブがいい。YouTubeで聴ける。『きんぽうげ』から始まって…ギターが、とてもいい。

「今日もいい天気だったね。でも、昨日、今日と、ダメだったわけだ」
 ダメダメだね。気持ちが、全然、落ち着かない。銭湯行ってもダメだね。浸かってる間はいいんだけど。パソコンに向かうと、泣けてくるようで。終わりに向かってる感じがしてね。
「タメイキばかり、ついてるね。人、恋しいのかね」
 友達がいない。人間が怖いよ。でも、人間の中でしか生きてられないし。

「どうしたらいいのかね」
 それで、ざわざわしてんだ。窒息、窒息。口、ぱくぱく。吸える、息がない。
「大変だね」
 自家中毒、自家中毒。すっぽり、頭から、でかいコップ。ザ・ベルジャー、シルヴィア・プラス。なんで死んじまったんだ…
「そう、やたら涙ぐみ、ちょっとしたことで、どうしようもなくなって…」
 おれの心、気持ち? 操縦不能。コントロール、不可能です。こいつ、ひとりで、何か、してる。あがいてる。飛べないくせに、飛ぼうとしたり。どこにも行けやしないのに、行こうとしてる。コップ、コップの中の、ハエ。

「心にとっちゃ、きみがコップなのに、そのきみがまたコップを頭から被ってるのか。悲惨だね」
 ひとり芝居、ひとり芝居。おれ以外、誰もいないよ。誰の介入も許さない。ゴルゴ13、『俺の背後に立つな』だ。おれは前後左右も許さない。
「上は?」
 上は、許す。
「下は?」
 下も許す。
「斜めは?」
 許さない。
「狭隘、狭隘。きみは、世界が狭すぎる。一体、何を守ろうとしているんだ?」
 もう、何も守れないんだがな。守るなんて、へんだ。何も、守れやしないんだ。
「少しは、ラクになったかね。書いて」
 少しは、ね。でも、刹那だ。きっと、また、涙ぐむ。ざわざわして、どこかへ、消えたくなる。
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