第88話 習慣

文字数 1,055文字

 朝起きると、まずアイスコーヒーを作って飲む。いつからこうなったのか忘れるほど、完全に習慣化してしまっている。コーヒーにはタバコも欠かせない。そしてパソコンを見る。この3点セットから、わたしの1日が始まる。
 FMは大阪のFM-COCOLOで、まちゃおさんというDJが滑らかな滑舌、自然な陽気さ、時に政治的なこともしっかり言う、イタリア生まれの日本人で、気に入っている。名古屋で入管していた外国人女性が死亡した事件については、「ちゃんと、しっかり明らかにしてほしいですね、こんなことはあってはならない」と言う。
 一方で、ヤフーのコメントなんかを見れば「不法入国者には当然の仕打ち」というようなニュアンスの残酷で軽薄な意見もあって、よくそんなことが書けるなぁと思う。匿名の、ばかげた意見だと思う。どんな形であれ、人間が人間を死に至らせるような仕打ちは、あってはならない。

 徳よ 徳よ
 お前のはたらきも衰えたものだよ

 最近、そんな言葉が頭によく浮かぶ。
 (はたらき) 、人間個人個人が生まれ持って、持っているはたらき。まわりがこうだからこうするとか、今まで皆こうしてういたから自分もこうする…そんな慣習によって、徳が殺されてしまったように思う。

 個人の習慣は、教わったものは少なく、自分でつくってそうなったものが多い。強制されてそうなったものは、弱い習慣で、いずれ生来の自分の身体が求める習慣へと還っていく。世間一般でいわれる良い習慣が、個人にとっては悪い習慣になることがある。一日三食とか、睡眠は八時間とか、頭で身体がつくられるわけではない。その人に合った食、睡眠で、その人がそれでよければいい。頭から生まれてきたわけでないし、身体ぜんたいの生命、その人の持つ「生まれてきた自然の力」で生きて行くのがいい。

 一生、そこに思いも馳せず、目もくれない人もいる。生まれてきたことを忘れてしまっているように思う。
 かくいうわたしだって、自分の正体を知れない。ただ、意力。意思のはたらきによる力によって、この世の出来事、身に降りかかる偶然を、ああ、これはこういうことなんだな、と必然に変えて受け止めている。すると、ひとつひとつの出来事に意味があり、自分の生きる方向のようなものが、自分にしか分からない説得力をもって迫ってくる。今まで、自分がこうしてきたことは自分の運命であって、その最終地点、死に対しても納得の意をもって対せるようになる気がする。

〈 人は、さまざまな経路をたどって同じ結果にたどり着く 〉

 さあ、今日も歩こう、歩こう。
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