第17話 鳥たちと荘子と

文字数 1,133文字

 家の前の川には、白サギが立っていて、たまに鵜(ウッ!)がそばにいる。
 こないだは、そこに青サギ(ねずみ色だが、青サギというらしい)にカラスが一羽加わって、何やら会議をしていた。

 庭には、そろそろメジロが、そして「モズ」という鳥が。
 このモズ、実に面白い鳴き方をする。最初聞いた時、カエルか、壊れたオモチャかと思った。
 ケコケコというか、コケコケ、ギギギ、とでもいうような声で、何やら独り言ちている。ヒバの木があるのだけど、その中で小声で鳴いていて、何とも面白い。

 音楽もいいけれど、鳥のさえずりはほんとうに心が和む。
 椿の、こんもりした葉々の中でヒヨヒヨ言っているのはメジロだろう。
 メジロは、その容姿がまた可愛い。うぐいす色をしていて、目のまわりが白く丸い。身体も丸く、小さい。
 冬はたいてい夫婦で来て、萩の花が咲く頃には子ども達を連れてくる。
 そしてブルーベリーの実をつついたり、萩の枝にとまって、みんなで何かやっている。萩の枝は柔らかいから、大きく

けれど、メジロ達は楽しそうだ。

 ハトの夫婦もたまに来て、水浴びならぬ土浴びをする。
 地面に這いつくばるような態勢で、羽を広げ、身体についたを取るような仕草をする。そしてどこかへ飛んでいく。

「荘子」の話を思い出す。
 鳥を射ようとする荘子は、その鳥がカマキリに狙いを定めて、じっと動かないでいるのを見る。そしてそのカマキリはカマキリで、別の虫に狙いを定めている。その虫も、何かに狙いを定め、じっと動かずにいる。それぞれが、それぞれの狙いに専心していて、自分が狙われていることに一向に気づかない。
 荘子は怖くなって、その場を離れた、という小話だ。

 人間も、自然につくられた存在だとしたら、何かに狙われているだろう。運命に?
 いや、狙われているというより、試されている気になる。
「お前はこの世で、生きてるうちに何ができるんだい? お前の内なる(はたらき)は、外にどんな作用を及ぼしているかい? どんな生き物も、ありのままに生きてるんだから、お前もそこからハミ出さなくていいよ。外にとらわれず、内なる徳のままで生きるのが、真の人生の成功者だよ」
 荘子は、そう言っている気がする。
「そもそも、生きることに失敗も成功もないんだよ」

 ペンギンは、空には外敵が多すぎるから、水の中に潜る術を得たとか。
 動けない植物は、甘い香りでハチを誘い、おしべの粉をめしべに運んでもらう。
 アリは、将来食べるために、アブラムシをせっせと育てたりする。
 生命の、すごい営み。
 彼らは、わかっている。
 人間だけが、生き物のうちで、自分の(もちまえ)以上のものを自分に課そうとしている。
 評価や評判、人の目ばかりを気にして、自分を失っている、自己喪失者。オレか。
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