第8話 インターネットがなかった頃

文字数 908文字

 インターネットがない頃、私はどんなふうに自分の時間を過ごしていただろう。
 携帯電話がアッというまに広がったのが、20年位前だった。みんな、下を向いて歩き始めた。それまでの「画面」は、テレビが中心だった。
 人とつながるということは、実際に会うか、固定電話で話すか、この二者選択しかなかった。手紙もあった。「書くには、時間がかかります。手紙は、相手に『時間』をプレゼントすることです」と、さだまさしが言っていた。

 今や、誰もが自分を社会に発信できる。この「ノベルズ…」にしてもツイッターやらブログやら、自分の云いたい事を、知らない人達に発信できる。
 改めて、凄いシステムだと思う。ひとりで部屋に籠っていても、まるで世界と繋がっている…

 ── 先日、美容室に行った。髪を刈られながら、「みんなスマホばっかりいじってるの、あれ、何なんでしょうね、なんか、ヘンというか…異和感が」といった話をした。美容師さん曰く、「わたしもそう思います。そういう中で、文庫本とか読んでる人がいたら、カッコイイなって思います」
 この美容師さんも面白い人で、「病院の待合室で、悲しい物語の本を読んでいた時、没頭して読んでしまい、人目を憚らずオイオイ泣き始めてしまった」とか。順番が来て名前を呼ばれたが、それどころではなくて、「どうぞどうぞ」と、泣きながら次の人に譲ったらしい。

 たぶん、私はいささかノメリ込み過ぎたと思、書くことに。
 書き過ぎたのだ。悪い事はそんなになく、むしろ良い事が多かったけれど、「過ぎた」感は否めない。
 パソコンなんかに捕らわれず、平然と、本を読み、働き、家事をし、という生活を送れたらと思う。
 できないわけがないのに、そうしない。

 どれだけ読まれているか、なんて気にすることは、それだけ自分が捕われているということ。読まれることで自分が立つとしたら、読まれぬことで自分は倒される。

 物の弾みで生きて来たようなものだから、これからも弾みに弾んで行くことには変わらない。
 ただ、「過ぎないこと」。これが、私に最も重要な、欠くべからざる必須のテーマなのだ。
 どんな素晴らしい文章を書くよりも、私にはよっぽど大事なことなのだ…
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