第59話 ありがたい限界

文字数 507文字

「私は何のために生きていたのでしょう?」
「いやぁ、それは…わしにも分からんわ」
「神様でも分からないですか」
「うん。分からんね」
「何のためでもなかったのでしょうか」
「それも分からんよ」
「では、この世界は何なのでしょう」
「それも分からんね」
「ああ、分からないのがホントなんですね。分かろう、知ろうとすることが、いけないのですね」
「分からないから分かろうとして、知ろうとして何も知れないことを知る。それで、いいんでないかね。だって、知れないものは知れないし、分からぬものは分からない。その限界の中で、いいと思うよ。もし限界がなかったら、もっと大変なことになる」

「神様でも、分からないんだ…」
「わしも、つくられたもんで」
「人間にですか」
「うん。その人間も、なぜわしをつくったのか、その心がなぜあるのか、知らんでいるからなあ。この世界には、この世界以上のものがあって、われわれはその『以上の』ものを永遠に知ることはできんじゃろうなあ」
「でも、あきらめられません」
「でも、あきらめる時が来る。否応なく、来るよ」
「いつですか」
「そりゃ、おまえさん、限りがあるんだから。おまえさんがこうしていることにだって、限りがあるんだから…」
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