第93話 のんびりノラさん

文字数 953文字

 駅までの道すがら、後ろから車が来たので、端に寄った。後ろを見て、何となく下を見たら、茶色と白の、何かアスファルトに似つかわしくない、柔らかそうなものが横になっているのを見た。
 驚いて、よく見ると猫だった。うわ、とビビッたが、さらによく見ると、チャンと呼吸をしている。道端に、堂々と横になって寝ている。
 夜で、街灯の灯りも弱い。危なく踏むところだった。ああ、いつかの昼間も、女の子がしゃがんで、この猫を撫でてたっけ。
「おいおい、こんな所で寝てたら危ないよ」小声で話し掛け、ちょっと頭を撫でた。すると猫はむっくり起き上がり、頭をぶるぶるさせて、近くの家の庭へ入っていった。

 こないだも、昼にこの道を歩いていると、やはり道端に、この猫が。家の中の、自分の部屋にいるように、全く警戒せず、堂々と横になって寝ている。自転車で通り過ぎたおじさんも、振り返って見ていた。
 やあ、元気? 危ないって…。しゃがんで、頭を撫でる。見れば鼻先にキズがあり、首にもキズがあった。
 ノラさんなのか、飼い猫なのか? ちょっと皮膚病みたいに、毛も薄いところがあった。ノラだろう。しかし、この無警戒さは…。
 そんなに汚れていない。目つきも、おっとりして、元々はお坊ちゃん(お嬢さん?)育ちの風情。
 男の手に撫でられるのは嫌いなのか、また起き上がって、近くのクリーニング屋のマットの上に行き、爪を研いだりしている。
 車に気をつけるんだよ、と小声で言って、バイバイする。

 しばらく見かけず、先日久しぶりに見た。皮膚病らしきところは、だいぶ回復した様子。左の脇腹辺りが少しハゲて、赤い斑点みたいなものがあったが、見えなくなって毛も綺麗になっている。
 ちょっと嬉しくなって、また頭を撫でた。すると、やおら横になって、ぼくの手に猫パンチしてきた。おお、元気元気。傷つけられるのはイヤなので、また車に注意して、を言ってバイバイする。

 直近で見たこのノラさんは、誰かの家と家の境界線の所の、細長いコンクリートブロックのような物の上に、置き物のように箱座りしていた。車に…をまた言って、通り過ぎる。(交通安全運動のおじさんかね、私は…)
 それから、しばらくまた見ていない。しかし、こんな無防備に路上にいる猫は、初めてだ。
 とにかく車に気をつけてほしい。
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