第64話 いきもの達

文字数 994文字

 たまに、家の庭に亀が来る。先日も、庭の側溝のブロックの上(側溝にはノラ猫さん侵入防止のために網を張り、ブロックを置いてある)にチョコンといて、甲羅干しをしていた。いた。30cm近くある大きな亀で、いきなりいるからびっくりする。
 顔を見れば、むっつり黙って、我慢強そうな口元をしてジッとこちらを見ている。キャベツをあげてみたが、食べなかった。
 目の前が川だから、そこから土手に登って下って、はるばる家に来るのだと思う。いつかは土手に、スッポンがいた。
 よく来てくれるから、飼いたいのはやまやまだけど、やはり生まれ育った環境がいいだろう。横腹(?)を両手でつかんで、川のヘリまで持って行く。ぼくが土手に上がると、ポチャンと音がした。

 昨夜も、土手の草や桜の木の葉に、ホタルが飛んでいた。青い、小さな、しかし力強い光を、ポッ、ポッとつけたり消したりしながら。せつない。そろそろホタルの季節も終わるのか、数が少なくなってきた。
 しかし綺麗なものを見ると、涙ぐむのは何故だろう? ほのかに浮かんでは消え、消えては浮かぶホタルの光は、ほんとうに綺麗だ。そして、どうしてもせつない。

 ホタルの季節が終わると、黒羽トンボが登場する。かれらも、幻想的ないきもので、薄い羽に、申し訳ていどに付いた顔をして、その身体は楊枝のよう。ふわふわと、静かに飛んで、こちらもふわふわ、慰められる心地になる。川辺にしかいないらしい。よく庭にも来てくれて、草の上に留まりながら、その羽を開き、閉じ、開き、閉じ、をゆっくり繰り返している。

 黒羽トンボの季節が終わると、鈴虫。桜の木にいて、けっこう高い場所から鈴の音が聞こえる。心が洗われるような、綺麗な音色。奇跡のように感じたりする。
 ウシガエルはモーモー言い、土管の中から響いてくるような音を立てる。あまり、品のいい声ではない。
 しかし、良い音だとかイヤな音だとか、綺麗だとか汚いだとか、こっちが勝手に決めているだけで、かれらはほんとうに「そのまま」なんだよな。

 そのうちセミも鳴き始める。夏は、人間の声も、よく聞こえるようになる。人間の声は言葉だから、同じ人間として、何を言っているのか「理解」できそうな気がしてしまう。
 鈴虫やセミ、ウシガエルは、こちらには理解できない。リンリン、ジージー、モーモー、聞こえるだけ。
 それが、いいんだな。
 理解できないのが、いいんだな。
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