第86話 家にいるもの

文字数 1,310文字

 わが家は、大道芸人が芸をして、観光客で賑わう駅前から徒歩15分の所にある。それほど田舎ではない。住宅地だし、人間が幅を利かせている世界に見える。だが、小さな生き物もたくさんいらっしゃる。家の前には小さな川(しかし豪雨の際は大川になる)があり、土が多いせいだと思われる。
 ヤモリさんは、ハワイでは聖獣と見なされているらしい。かれは、たまに顔を出す。網戸を開け閉めする時、たまに「ボトッ」と落ちてくる。窓に、「ピトッ」とへばりついていたりする。一回のご懐妊で、おひとりぐらいしか生まれないらしい。こどものヤモリさんを見ると、無事に育ってくれよと願わずにはいられない。可愛くて、ユーモラスな生き物だ。

 夏の庭には、こどものカエルさんが7名もいらっしゃった。たぶんウシガエルだと思うが、川で産まれ、土手を越えて、はるばる家に来てくれたのだ。雑草をむしったりしていると、ぴょんぴょん跳ねて、可愛かった。今はどこに行ったのか、めっきり見なくなった。

 ホタルさんは、今年も綺麗だった。はかなく、淡い光で、ずいぶん心を和ませてくれた。
 クロハネトンボという、楊枝ほどの胴を持ち、薄い黒羽をひらひら羽ばたかせるトンボさんにも、よく癒された。これは、土手を歩くたびに、ふわふわ舞うように飛ぶ、幻想的な生き物で、庭にもたくさんいらっしゃった。

 ゴキブリハンター、「軍曹」などの異名を持つアシダカグモさんも元気である。いつのまにか、チョコンといたりする。
 こどものアシダガさんは可愛いが、何年家で生きたのか、巨大化したアシダカさんには、ちょっとビビる。CDより小さいけれど、足を伸ばせばそのぐらいの大きさの、成長したアシダカさんを見た時は、マイッタ。カーテンに、しがみついていらっしゃったのだ。申し訳ないが、捕獲し、外に出て行ってもらった。
 ムカデさんは、あまりありがたくない。いつか寝ようとしていた時、耳に何かが触れた。あわてて飛び起きると、かの氏であった。これはキツかった。いつもは空きビンで捕獲し、外に出て行ってもらうが、この時は殺生してしまった。

 裏庭のに出る掃き出し窓の下に、段差緩和のために置いているブロックの中には、アシナガバチさん達がせっせと巣を作っていらっしゃる。こちらが攻撃しなければ無害と聞く。殺生はしたくない。だが、共生が難しい。冬、眠っているうちに、出入り口を塞いで、成仏して頂こうと思っている。これは、かなり悲しい。

 虫から痛い目に遭ったことはなかったが、今夏、初めて「サシムシ」という虫に咬まれた。部屋でパソコンをしていたら、畳にコメツキバッタみたいなそれがいた。手に取って、外に出してやろうとしたら、「ギー!」とかいって、指を咬んできた。これは痛かった。腫れもなかったが、しばらく痛みが続き悶絶した。
 たまたま部屋に来ようとしていた家人が、咬まれた瞬間の僕を目撃し、瞬時にその虫を叩き潰した。あれは何だったのかとネットで調べ、その形状から「サシムシ」の存在を初めて知った。

 だが、なんだかんだと、いてくれてありがたいのは家人である。
 そして、こんな文章を読んで下さる、この部屋のパソコンの向こう側にいる方々…。
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