第52話 老人に弱い

文字数 1,241文字

 老人、と一口に言っても、意地の悪そうな人、温和で、柔和な感じの人と、いろいろ、いらっしゃる。若年、中年、壮年、トシの違いはあっても、人が千差万別であることは、いつも変わらない。
 私は老人に弱い。押し車を押して、腰の曲がったおばあちゃんが、ゆっくりゆっくり歩いている姿などを見ると、大丈夫かなと、気になって仕方ない。といって、ずっと見ていたら不審者だし、通り過ぎて、何をするわけでもないのだが。
 先日は、車椅子に乗ったおばあちゃんが、ひとりでスーパーに買い物にいらしていた。だが、車椅子では、商品棚の上の方など、手が届かないだろう。おばあちゃんは、お魚のコーナーにいたが、よっぽど何か、取れない物があったら、代わりに、取りたいと思った。お魚の他にも、色々と買い物があったら、手伝いたいと思った。

 …こう書いていて、ああ、お魚のコーナーの時だけでも、声を掛ければよかったと後悔している。あの時、それから先のことを考えてしまった。おばあちゃんの買い物がぜんぶ終わるまで、付き添わなければ、と思ってしまった。そんな、見知らぬ他人に、ずっと付きまとわられたら、仮に、世間話とかしながらだとしても、先方も、気を使ってしまうだろう。結局私は、自分の買い物だけ済ませて、店を出た。

 また先日は、別のスーパーで、知らないおじいちゃんから話しかけられた。かなりレジが混んでいて(ちゃんとソーシャルディスタンスをしながら)、並んでいたら、何となく自然な感じで話しかけられた。とても品のいい、見た目や容姿ではなく、品のいいおじいちゃんで、待っている間、ずっと話し込んでしまった。
 他のお客さんの手前、ふたりだけ「密」になって、おじいちゃんはいろんな話をしてくれた。やっと私の順番になって、レジに行ったら、「あ、買い忘れた物があったから、行ってきます」みたいなことを言って、おじいちゃんは笑ってどこかへ消えて行った。

 コロナコロナで、人との接触がはばかれる中、何だか、気持ちのいい、4、5分(に感じた)程度の、おしゃべりだった。まわりのお客さんには、ちょっと、ご迷惑だったかもしれない。小声で、ふたり、話していたけれど、イヤな感じを与えていたかもしれない。
 べつに、ほんとに私は、自分だけがコ○ナに罹ればいいと思っている。でも、この病気の厄介なところは、「人にうつる」こと。自分だけでは、済まされないところに、つらさがある。

 代々木公園の木々たちが、パブリックビューイングのために伐採されるニュースを見た。怒りを通り越して、涙ぐんだ。何十年もかかって、大きくなった木を、たかが一ヵ月のオリンピックのために、切るなんて。
 しばらく行っていないけれど、代々木公園の木々には、ずいぶんホッと、憩えた記憶がある。大きく育った木々たちだ。ほんとに、何を考えてるんだ、政治。
 ワクチン接種で、死亡した人も、「老人が多いですから」といったニュアンスで、公言していた政治家がいたらしい。
 とにかく、滅茶苦茶である。私もか。
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