第37話 無心な殺生

文字数 472文字

 庭にいた、ハンミョウという虫を、殺した。ナメクジに塩をかけて殺したこともある。
 子どもの頃、なんであんな残酷なことができたのか。
 思い出すだけで、涙ぐむ。何のための涙なのか。
 いつからか、私はそういった殺戮をしなくなった。誰かから、やめろとか、やっちゃいけないとか、言われた覚えはない。

 今も、蚊は殺す。ゴキブリも、あまりに巨大だと、殺したりする。それ以外は、目立った殺生をしていない。虫が部屋にいたら、手やガラス瓶でとって、外に逃がす。町の中で、枯れた木を見掛けると、悲しくなる。雑草を抜く時も、少し申し訳ない気持ちになる。
 幼児期の、残酷だった私の心は、どこへ行ったのかと思う。それとも、知らないだけで、どこかに潜んでいるのだろうか。

 私は、殺人を犯した人に、なぜ人を殺めてはいけないのか、その理由を論理立てて説明することができない。きっと、「情」に訴えるような仕方になってしまいそうだ。
 その罪を犯した人だって、感情、つまり情的なものに突き動かされて、やってしまったのだとしたら。
 私も、情に動かされるだけで、同じ穴に落ちることになる。
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