うちへおいでよ (9)
文字数 963文字
カナヘビというが、ヘビではない。ちゃんと両手両足のあるトカゲだ。
それが、いわゆるふつうの地味なトカゲと違って、きらきらメタリックに輝く可愛いやつなのだ! この「!」にこめた作者の愛とテンションを感じてほしい。
体の線にそって流れる黒い縦縞もおしゃれ。なかにはしっぽが目の覚めるようなブルーで宝石みたいな子もいる。
創ってませんよ。そのへんにいますよね。作者は職場の中庭で見かけたよ。
でね、ここからが驚き桃の木さんしょの木なんだけど、それはカナヘビくんじゃなかったのだ。
へ?
正式名はニホントカゲだったのだ。そしてニホンカナヘビはなんと、「いわゆるふつうの地味なトカゲ」のほうだった。
は?
比べてみると、地味子ちゃんのほうが断然しっぽが長くて全体の三分の二がしっぽ。たしかにヘビっぽい。だからカナヘビ。なるほど。
なるほど、なんだけど、だけど。
がーん。
そんな。
信じてたのに。キラキラなあの子がカナちゃんだって。
喩えて言うなら、ローラという名の女をずっと愛してきて、ある日突然「彼女本当はシンシアっていうんだよ」と知らされたような気分だ。
あんまりじゃないか。おれのローラ。きゅうにシンシアと呼べと言われてもそいつは無理な相談だぜ。わかってくれよベイベー。誰に言ってるんだ。
ということで、この小説では、カナヘビ@正式名はニホントカゲだがで押し通す。押し通る! だって「カナヘビ トカゲ 違い」で検索するとめちゃくちゃたくさんのページがヒットする。ほらね、みんな迷ってるのだ。これはもう名づけた学者さんたちが悪いとしか言いようがない。
いまさら「薄闇の底に一匹のニホントカゲがいる」なんてファンタジーに書けますかっての。
ということで、薄闇の底に一匹のカナヘビがいる。
土壁はほどよく乾いている。なんらかの小動物が放棄した古い巣穴のようだ。
緑みをおびた金色の細い体が──
白い毛皮の上をちろちろと走っている。
突然飛びこんできた火の玉がその背をかすめ、小さな生き物は土の床にころがり落ちた。腹ばいになり、荒い息をついている。
仕止めそこねた
カナヘビと火狐。
二匹は、ほの暗い闇をへだててにらみあった。