うちへおいでよ (11)
文字数 712文字
「ここもじきに崩れます。逃げ道はご案内いたしますが、その前にお聞きください」
波多野姉妹のみならず、三郎四郎の二人にも追手がせまっている。
つっかえつっかえ、そう少年は告げた。
「なぜ」
「ぼくにもわかりません」瞳に必死の色がある。「もしかすると、姫さまがたより強力なお力を、お二人ご兄弟はお持ちなのではないですか? 北陵のかたがたはそれに気づいていないから、うっかり四郎どのを置き去りにしてしまった。でも――」
「じゃあきさまは南都の」
少年は黙っている。唇がふるえている。
「どこだ」
マルティノのつぶらな目から、同じほどつぶらな涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「どこだ。言え」
「こ……」
「何」
「ご、五重の塔の」
「興福寺か!」
フロリアンはうなった。三方、四方から囲まれる圧迫感。
「ぼくの口からはこれ以上申し上げられないのですが」そう言いつつ、半分むせび泣きながら少年は告白する。「姫さまがたと違って、お二人ご兄弟は捕らえられたらおいのちがありません」
「どういうことだ」思わず少年の両手をつかむフロリアンだ。
「そ、相談しているのを、聞いてしまって」
「どんな」
「ですから……」
フロリアンはそっと手をゆるめた。これ以上責めてもかわいそうだ。それに、この子は恩人でもある。
その憐れみの表情を見て、マルティノはついにわっと泣きだした。
「か、皮を……生き皮を……剥いで使うと」
「何に使うかはわかりません。とにかく、早くお逃げください。遠くへ」