うちへおいでよ (18)
文字数 753文字
あらためてそう自覚したら、さすがのミランダも、しみじみ心細くなった。
ちゃぷ、と湯を両手でかいてみる。
(アリちゃん)
あんがい、妹を心の支えにしてきたのは、自分のほうだったかもしれない。
(三郎)
追ってきてくれなかった。けっきょく主君を選んだのか。男なんてそんなもの――
(だけど四郎くんが)
あのとき白狐は仮死状態に見えた。三郎があの弟を見捨てるはずがない。そうだ、きっと来ていた。きっと同じ空間のどこかにいたんだ。なのに姿を現さなかった。
(何かあったのかも)
(何が?)
佐藤兄弟が満身創痍でいったん退却したことなど、知るよしもないミランダだ。
だが、疑うより信じるほうを選ぶ。何かあったにちがいないという直感を信じる。
ミランダのこういうところが作者は好きだ。
よけいな疑心暗鬼が戦いの効率を落とすことを、彼女はよく心得ている。
それにしても――
(武蔵くん)
彼の大きな姿がいつもそばにあることが、最近あたりまえになってしまっていた。頼っていることじたいを忘れるほど頼りきっていた。
(御曹司)
そもそもあいつに会わなければアリアもあたしもこんなトラブルに巻きこまれずにすんだのだ。あのバカ!――とは思うけど、思うけれども、やっぱり心配だ。知らないところで討ち取られたりしてほしくない。
(みんな無事でいて。どうか)
気がついたら、そう祈っていた。
そうよ、あたしが弱気になってちゃだめじゃない。誰か助けて、なんて言ってられない。助けが必要なのはみんなのほうかもしれないのだ。
あたしがしっかりしなくてどうする。
両手で頬を押さえ、息を吐く。
そのとき、
「失礼します」
そっと湯殿の戸が引かれ、ミランダは思わずざばっと湯舟から立ちあがった。
「あのう、お背中、流しましょうか?」