見つめていたい (3)
文字数 1,139文字
ひとことで言うと、恐怖の表情だ。
じつは、彼とかぎられた数の側近だけは、これ以前にもカミーユとオンラインで対峙したことがあった。
かつて、あばれんぼうの木曽殿こと源義仲が平家を追いはらい、調子こいて都入りしてウェーイと好き勝手をしていたときに、困った後白河院は頼朝に助けを求めたのだ。
頼朝は快諾したのだが、優しい性格の後白河は、「でもきみたちいとこ同士だし仲よくね」とよけいな一言を付け加えてしまった。正確に言うと、義仲だめだから誰かと交代させてくれ(その「誰か」に義経が抜擢されるわけだけど)と頼朝に頼みつつ、義仲のホームである木曽や北陸方面はまあ彼にまかせといてもいいんじゃないの? ほら義仲くんあばれると怖いし、牛の角に火とかつけるしね※という、ぶっちゃけものすごく
これが地雷だった。
頼朝は激怒した。
必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
もちろんそんなことはないのだが、「筋が通らない」と猛反発した。朝廷は、彼女の怒りの沸点がひじょうに低いことを、事前にちゃんとリサーチしておくべきだったのだ。
(義仲くんも怖かったけど、頼朝ちゃんはもっと怖いからなあ)
ローレンス、涙目である。
(源家のひとたちみんな怖いにょ)
あのとき「源氏の棟梁はわたし一人です。あの無礼者から院をお守りすると申しあげているのに、なぜ彼とわたしを同列に置くのですか。なんなら都ごと義仲つぶしましょうか、こちらから軍を送って。まあ手始めに騎兵五万ほど出せますけど?」と理路整然と
(しーちゃん。ぼくを守って)
こっそり携帯扇風機を両手で握りしめていたりする。
彼は夢にも知らない。スクリーン上ではきはきと語るカミーユもまた、デスクの下で手汗をびっしょりかいて例の無印良品のオーガニックコットンガーゼハンカチをぎゅっと握りしめているなどということは。
「このたびはこのような機会を与えていただき、心から感謝いたします」
背筋をすっきりとのばし、微笑みをたやさずに続けるカミーユだ。
「お伝えしたいことは、三つあります」
※木曽勢が平家軍を大破した有名な「