トリビア:まーくんが「比類なきバカ帝王」だった件について
文字数 1,300文字
日本にも中国にも(つまり当時の全世界)、こんなバカ帝王なかなかいない。
同時代の後白河評だ。
歴代の天皇で、臣下にここまで言われた人って他にいるんだろうか。いっそすがすがしい。
何度読み返しても、笑いが止まらない。
たしかに
だけど、バカって言われたからバカだったって決めつけていいんだろうか。バカって言ったほうがバカかもしれないでしょ。
頼朝の「日本第一の大天狗」と同じで、誰が、いつ、どんなときにそう言ったか、ということって、大事だと思う。
で、誰がそう言ったかと言うと、
この人は『玉葉』という日記をずっとつけていて、そこに出てくる発言なのだが※、この日記が基本ひじょうに正確で信頼に足る歴史資料となっているらしい。もうそれだけで偉い人だ。作者なんて日記、最長で二日しか続いたことがない。
当然、きちんと系の頼朝と気が合って、のちに摂政と関白を歴任し、朝廷と幕府の橋渡し役をつとめることになるのだが、この「バカ帝発言」のときはまだ不遇の身だ。
当時、あばれんぼうの義仲くんが京都であばれていた。
困った後白河院は兵を集めて対抗しようとした。これを聞いた兼実くんが「そんな田舎武者と張りあうなんてはずかしいからやめて。負けたらもっとはずかしいし」と気をもんでいたら、心配的中して院サイドはボロ負けし、義仲はなんと院を幽閉してしまう。
その後、義経が義仲を追いはらってくれて、幽閉をとかれた院は喜んで義経をかわいがるようになるのだけど、宮廷貴族たちの再編成はそれとは別で、後白河院は(義仲が追い出した)前任の摂政を呼び戻して再任させた。
この基通くんが、なんの取り得もない人だったらしい。
院に愛されていた(どうやらディープに愛されていた)――ということ以外。
このときの兼実くんの気持ちを思うと泣ける。
今度こそ有能な摂政が必要だよね、兼実くんなんかいいんじゃない?という話もあったという。その矢先のこの人事だ。
私(作者)には「権力欲」というものがよくわからない。リアルライフで権力バトルにかかわったことも一度もない。だけど傍から見ていて、とくに偉くなりたいと思っていない温厚な人であっても、
「なんで(おれじゃなくて)あいつなんだ」
と思ってしまう瞬間がある、ということはわかる。理解できる。共感する。
その悔しさと怒りの矛先が、選ばれたバカより、選んだバカに向かうという心理も痛いほどわかる。
人は、認められたいのだ。哀しい生き物だ。
なんでおれを採用してくれないの。バカじゃないの?
そう読むと、兼実くんの暴言にも、なんだかきゅんとしてしまう。
※この「暗主」発言、周到にも「他の人がそう言ってたよ(ぼくじゃないからね)」という形にはなっているのだけど、それをそのまま書きとめている段階で兼実くん自身の気持ちってことですよね。
ちなみに、言ったことになっているのは