うちへおいでよ (14)

文字数 977文字

「三郎どの、これを」
 マルティノがさし出したのは、白い可愛い守り袋だった。小さな金の鈴がついている。
「何だこれは」
「お守りです。本物の四つ葉のクローバーが縫い込めてあるんです」
「四つ葉のクローバー??」(このシチュエーションで何いきなり乙女?)
 思いっきりとまどうフロリアンだ。

「幸福のお守りです」マルティノは真顔で言う。
「幸福の?」
「興福寺だけに」
「こ……」
「興福寺だけに」
「お、おう」(まじか)
 作者も(まじか)と思いましたよ。興福寺公式ホームページで見たときは。

「霊験あらたかなんです」やはり真顔で言う。「お二人の行き先(デスティネーション)の現時点における最適解をアルゴリズムで割り出してくれます」
「お……おう(ちょっと何言ってるかわかんないけど)、サンキュ」

「振ってみてください」

 言われたとおりに白い守り袋を振ると、ちりちり、とかすかに鈴が鳴る。
 とたんに淡い光の柱が立ち、フロリアンの体を包みこんだ。
「リープの補助にお使いください」とマルティノ。「グッドラック」

 手さぐりで手をのばすクリストフの肩を、兄がしっかりと抱く。
「おまえもいっしょに来るか?」と少年に声をかける。
 だが、マルティノは首を振った。「ぼくはお寺に帰ります。そうしないと……怪しまれますから……」
 言いながら体がふらりと傾いた。さっきの自切による消耗が激しくて、じつは立っているのもやっとだったのだ。
 フロリアンはいったん弟を置いて少年に駆け寄り、抱き起こして、壁に背をもたせかけてやった。
「大丈夫か」
 額をなでてやるとうなずいている。「少し休めば」とけなげに言う。
「そうか」
「ちゃんと立ってお見送りします」
「いいから楽にしてろ」

「世話になったな」

 もう一度、鈴を振って、光の柱を立てる。
「三郎どの。ご無事で。四郎どのも」
 そう声をかけられて、フロリアンは笑顔を見せた。
「無事より、武運を祈ってくれ」

 ―― 

 兄弟の消えた後のかるい土ぼこりが光に舞うのを、少年はいつまでも見送っていた。
「三郎どの」
 小さくつぶやいて合掌する。
(……)

(尊い……っ!!)
 愛らしい頬に、ほんのり血の気がさしている。

 地響きがし、ぱらぱらと土が天井から落ちてきた。
「やばっ」
 カナヘビは力をふりしぼって、壁の中に消える。

 次の瞬間、轟音とともに巨大な水晶のかたまりが天井を突き破って落ち、小さな洞を押しつぶした。
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登場人物紹介

波多野静/アリア(はたのしずか/ありあ)


この物語のヒロイン。明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳。惚れっぽいのが玉にキズ。海霊族(ネレイド)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


アリアの同学年生(クラスは違う)。長身で俊足だが、内気で目立つのが苦手。極端な無口。女子に対する耐性ゼロ。アリアに片思い中。水狐(ウォーターフォックス)。

波多野遥/ミランダ(はたのはるか/みらんだ)


アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。海霊族(ネレイド)。

水原九郎義経/クロード(みずはらくろうよしつね/くろーど)


アリアの同級生で恋人。小柄だが学年一の美貌で、すでに女子の半数は陥落させている(推定)。身体能力、とくに跳躍力に優れ、お気楽な言動で周囲をふりまわす。ベンジャミンたちから「御曹司」と呼ばれている。樹霊族(ドリュアード)。

武蔵弁慶/ベンジャミン(むさしべんけい/べんじゃみん)


アリアの同級生。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。じつは料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)


クリストフの兄。容貌・性格・身体能力ともにクリストフとよく似ている。ただし左肩から右脇腹にかけて貫通創あり(一度死亡)。ミランダに片思い中。火狐(ファイアーフォックス)。

水原由良頼朝/カミーユ(みずはらゆらよりとも/かみーゆ)


クロードの異母姉。アリアやクロードたちとは別の全寮制高校に学ぶ。男装して生活している。頭脳明晰、真面目で誠実だが、男心も女心もまったく解さないのが玉にキズ。樹霊族(ドリュアード)。

遠藤盛遠/文覚/バルタザール(えんどうもりとお/もんがく/ばるたざーる)


カミーユとは中学時代からの先輩後輩の仲。アリアとミランダとは江ノ電の中で知り合う。荒海を一喝して静める法力の持ち主。性格は豪快で、人情に厚い。水霊族(ナイアード)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の権力構造の最高位にありながら、一見ひょうひょうとした異端児の風貌を持つ。が、その本心は未知数。バルタザールとは熊野での修行仲間。龍族(ドラゴン)。

土佐昌俊/ジョバンニ(とさしょうしゅん/じょばんに)


ベンジャミンのかつての修行仲間。その後カミーユに仕えていたはずだったが、詳細不明の経緯によって刺客となり、謎のダイイング・メッセージを残して世を去る。土霊族(ノーム)。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)


クロードとベンジャミンのかつての同級生。いまは転校してカミーユの高校にいる。清廉潔白な人柄で「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。見た目しゅっとしているのに力持ち。人馬族(ケンタウロス)。

北条政人/オーギュスト(ほうじょうまさと/おーぎゅすと)

カミーユの同級生。寮では隣室。そつのない完璧な優等生。影となり日陰となり(?)カミーユを支えるが、いまだに友達以上恋人未満の生殺しポジションに置かれている。水霊族(ナイアード)。

滋子/ジェニファー(しげこ/じぇにふぁー)

後白河院の女御。院号は建春門院。かの平清盛の義妹(妻の妹)。美貌と知性と気くばりを兼ね備えたパーフェクトなレディ。溺愛してくる夫を甘やかしつつ、さりげなく手綱をとっている。樹霊族(ドリュアード)。

横川覚範/セバスチャン(よかわかくはん/せばすちゃん)


比叡山延暦寺(天台宗)の荒法師。四郎忠信とは宿命のライバル(に今後なるはず)。山霊族(オレアード)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)


醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取る。謎の使命を帯びてアリアに近づく。樹霊族(ドリュアード)。

※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

金王丸/マルティノ(こんのうまる/まるてぃの)


土佐坊ジョバンニの弟。推定年齢十歳前後(ヒューマノイド換算)。聡明で献身的。思いがけない形で佐藤兄弟の前にあらわれ、ある重大な秘密を告げる。土霊族(ノーム)。化体はカナヘビ=草蜥蜴(グラスリザード)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)


一人当千の女武者。ミランダの盟友となる。素はおちゃめで尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだった。土霊族(ノーム)。

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