あなたの庭では遊ばない (6)
文字数 875文字
「どこまで知ってた?」とバルタザール。
「人魚ちゃんがひとり捕まりかけたという情報が入ってね。わたしへの献上品にするつもりらしいと。きみの友人のお姫さまたちの話を聞いていたから、いやな予感がして探ってみたのだけど、動いているのがアンチわたし派のほうらしくて、詳しい話が上がってこない」
「じゃあプロフィールうんぬんというのは」
「あれははったりだ」
「はったり」
「かまをかけた、というやつかな」
ローレンスの薄笑いには、寂しい影がある。
「彼女がすでにわたしのもとにいるらしいと匂わせてみた。あんのじょう、慌てふためいた者たちがいたのをきみも見ただろう。あの顔を憶えておく」
後白河院もまた、驚異的な記憶力の持ち主だったという。
「彼らがあんなに動揺したのは、彼らの手中に彼女はいないという証拠だ。道具として使うつもりだったのに、わたしサイドに先を越されたと思ったわけだね。でも、ごめん。あれは嘘だ。ただの時間稼ぎ。本当にわたしが保護してあげられているわけではない」
「じゃあ」
「人魚ちゃんの居場所はわたしにもわからない。きつねくんも」
「じゃあ誰が」
「わからない。申し訳ない」
窓は開け放たれているのに、風が動かない。
動いたのはローレンスのほうだった。静かに立ちあがり、テラスに出る。
「わかってほしいのだけど、わたしにそんな力はないんだよ」しみじみと言う。「祖先が天孫として降臨して以来、この列島は代々わたしたち
「まさか」
「本当だ。ここへ来て、見てみたまえ」
並んで見おろすと、はるかに霞たなびく下に、峻厳と広がる大都市がある。
コンクリートとガラス、スタイリッシュなモノクローム。白と黒と灰色のグラデーション。
完璧な小宇宙。
石の庭だ。